その名はドラトーラ
「……のう? 一つ聞いてもいいかの?」
フランベルク三世とバルベルトが話しているのを見て、少しくらいなら自分達も私語をしてもいいだろうと思ったクリストファーがサイに話しかける。
「はい。何でしょうか?」
「……お主達がモンスターに襲われたウォーン砦へ救援に向かう時、ドランノーガを奪おうとした違反者。それがアグレス・クライドの曽孫だったというのは本当か?」
クリストファーがサイに聞いてきたのは、今は牢獄の中にいるアイリーンについてのことであった。
「え? ええ、そうですが。……ゲーボルク大将閣下はアイリーンのひいおじいちゃんの事を知っているのですか?」
「当然じゃろう? 同じゴーレムトルーパーの操縦士同士、何度も同じ戦場で戦った事がある。……あやつはプライドが高すぎる奴じゃった。家がフランメ王国でも名門である事を誇るのはいいが、下の者の事なんて全く見ておらず、その結果が下の者に暗殺された挙句ザウレードを奪われるなんて笑い話にもならん。そして今度はその曽孫が罪を犯して投獄されるとはのう……」
サイの質問に答えるクリストファーの目はどこか寂しそうに見えた。
「ゲーボルク大将閣下……」
「……さて、時は金なりとも言う。陛下達の話し合いも終わりそうじゃしの。そろそろ前文明の遺跡に案内してもらおうかの?」
「……分かりました。案内します」
何かを言おうとしたサイだったが、それより先にクリストファーに話しかけられてしまい、サイはクリストファー達を自分の曽祖父が発見した前文明の遺跡に案内するのだった。
「これは……! なんて見事な生鉄の樹だ!」
「おおっ! こんな状態がよい生鉄の樹は初めて見るな!」
サイの実家の倉庫から前文明の遺跡に入り、生鉄の樹がある遺跡で一番奥にある空間に着くと、フランベルク三世とバルベルトはそこにある生鉄の樹を見て大声を出した。護衛のクリストファーにビアンカ、そしてブリジッタとクリスナーガも生鉄の樹の状態を見て驚いた顔をしていた。
「え? 何が凄いんだ?」
フランベルク三世達が何で驚いた顔をしているのか分からず呟くサイに、ブリジッタがやや興奮気味に説明をする。
「サイさん。これって凄いことなんですよ? 今ある他の十二本の生鉄の樹は発見時から保存状態があまり良くなくて、保有している国々も色々と対策を行ってはいるのですが、年々状態が悪くなってゴーレムオーブができるまでの期間が長くなっているんです。ですけどこの十三本目の生鉄の樹は、私が見てきた中で一番状態がいいんですよ」
ブリジッタの説明を聞いていたフランベルク三世が生鉄の樹から視線をそらす事なく頷く。
「ブリジッタ嬢の言う通りだ。こんなに状態のいい生鉄の樹なら、他の生鉄の樹よりも早くゴーレムオーブが作られる事が望めるだろう。……そしてあれが」
そこまで言ったところでフランベルク三世は生鉄の樹に向けていた視線を、生鉄の樹の隣にあった巨大な影に移し、それにつられるように他の者達も巨大な影を見た。
「そしてあれがサーシャちゃんのゴーレムトルーパー……」
そう呟くクリスナーガの視線の先にあったのは、全身がアクアブルーの竜に乗った騎士の外見をした鋼鉄の巨像、ゴーレムトルーパーであった。
下半身の竜は鰐のような大型爬虫類とドラゴンが一つになったような強靭かつ凶悪な外見で、上半身の騎士は頭部と胴体は女騎士のデザインをしているのだが、その両腕は頭部と胴体を含めた長さより長くてまるで鉄塊のような大きさをしていた。
「……これは中々逞しそうなゴーレムトルーパーですね」
「ああ、そうだな。そういえばサーシャ? このゴーレムトルーパーの名前はあるのか?」
ピオンの呟きに答えてからサイが聞くとサーシャがそれに頷く。
「うん、あるよー。このコの名前は『ドラトーラ』。このコってドランノーガの妹みたいなものでしょう。だからそれっぽい感じにしてみたんだけどー、カッコよくてカワイイでしょう?」
ドラトーラ。
それがサーシャが作り出したこのゴーレムトルーパーの名前であった。
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