イーノ村に訪れた集団

 フランメ王国の王都リードブルムの東にある辺境の地リューラン男爵領……いや、サイの活躍によりリューラン家が男爵から伯爵へ陞爵されたことで今ではリューラン伯爵領にある唯一の集落イーノ村に、突然十数人の集団が訪れた。


「本当に何もないな。まさに辺境の田舎村って感じだな」


「そういうことはあまり口にするな」


 集団の中の一人、黒髪を逆立てた四十代の男がそう言うと、同じ集団の中にいた銀色に見える金髪の二十代の男がそれをたしなめる。


「ああ、悪い悪い。俺も娘の婚約者の故郷を悪く言うつもりはなかったんだが、つい本音がな……」


「だからそういったこと言うなと……もういい」


 黒髪を逆立てた男の言葉に銀色に見える金髪の男が諦めたように息を吐く。そんな二人の姿を見て、他の集団の一人、サイが思わず呟いた。


「フランベルク陛下とバルベルト陛下がこんな所で雑談しているだなんて……。父さんが見たら今頃気絶しているだろうな」


 サイの視線の先にいる二人。銀色に見える金髪の男はフランメ王国の国王フランベルク三世で、黒髪を逆立てた男はアックア公国の大公バルベルトであった。


 もしこの場にサイの父親がいれば、今彼が言ったようにフランベルク三世とバルベルトの姿を見て気絶するか、「何もない田舎で申し訳ありません!」と言って土下座をしていただろう。そんな光景を脳裏に鮮明に浮かび上がらせながらサイは呟く。


「それにしてもフランメ王国とアックア公国のトップがこんなにも早く動くとは思わなかったな……」


 サイとヴィヴィアンがフランベルク三世にイーノ村にある前文明の遺跡の情報を明かして、前文明の遺跡を献上する代わりにイーノ村周辺の地域を、リューラン家を管理者としたフランメ王国とアックア公国の共同管理地にしてほしいと嘆願した日より一ヶ月が経っていた。


 サイ達の訪問を受けた次の日、フランベルク三世は直接バルベルトの元へ向かい、イーノ村にある前文明の遺跡の事とそれを献上する条件としてイーノ村周辺をフランメ王国とアックア公国の共同管理地にするという話をした。その話を聞いたバルベルトは、前文明の遺跡の情報が本当なら条件をのむと快諾して、二国のトップは急ぎ自国の仕事の予定を調整して時間を作り、こうしてイーノ村へ視察に来たのだった。


 ちなみにこの時フランベルク三世をバルベルトの元へ送ったのはサイとドランノーガであり、この一ヶ月の間、空を飛べるドランノーガとそれを操縦するサイは何度もフランメ王国とアックア公国を行き来して重要書類を送り届け、フランベルク三世とバルベルトの予定調整の大きな助けとなっていた。


「それは当然だろう? 今回の件はそれ程まで重要な事なのだから」


 サイの呟きに答えたのはアックア公国のゴーレムトルーパーの操縦士の一人で、バルベルトの実の妹のビアンカ。今回フランベルク三世とバルベルトは、イーノ村に訪れた理由が理由なだけにそれぞれ信頼できる護衛を一人しか連れて来ておらず、バルベルト側の護衛としてついて来たのが彼女であった。


 ビアンカの言う通り今回の件、ゴーレムオーブを作り出す新たな生鉄の樹が手に入るかもしれないという話は、フランメ王国とアックア公国の両国の関係と軍事力を大きく変えるかもしれないのだ。こう指摘する彼女の言葉に話を聞いていたフランベルク三世側の護衛も頷く。


「うむ。ビアンカ嬢の言う通りじゃな。サイよ、お主ももっと緊張感を持たんか」


 サイに注意したフランベルク三世側の護衛は、見た目十一、二歳くらいの少年だった。背丈もピオンより少し低いのだが、サイは自分よりも歳下に見える護衛に頭を下げて謝る。


「も、申し訳ありません。ゲーボルク『大将閣下』」


 クリストファー・ゲーボルク。


 それがこの見た目が少年の護衛の名前であった。


 フランメ王国のゴーレムトルーパーの操縦士の一人であり階級は大将。侯爵の爵位も持っている。


 ちなみに今年で六十八歳。見た目こそこの中で一番若いのだが、実際はこの中で一番の年長者であった。

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