ヴィヴィアンの狙い
「サーシャさん」
「あ……」
ヴィヴィアンとフランベルク三世との会話にショックを受けたサーシャに、ヒルデが優しく話しかける。
「大丈夫ですよ、サーシャさん。どうか自分を追い詰めないでください」
「ヒルデさん。……はい」
ヒルデの言葉にサーシャは落ち着きを取り戻し、そしてそうしている間にもヴィヴィアンとフランベルク三世との会話は続いていた。
「ふむ……。強すぎる力は周囲に不安を与え、同盟国との関係にも影響を出すか……。確かに道理だが、我がフランメ王国とアックア公国は長年に渡り強固な同盟関係を結んでいて、ゴーレムトルーパーの数が一機増えたとしても不和が生じるとは思えないな」
「ええ、確かにそうでしょう」
「む?」
ゴーレムトルーパーの数が増えすぎた事でアックア公国との関係に不和が生じる可能性がある、というヴィヴィアンの意見を否定するフランベルク三世だったが、意外な事に言った本人であるヴィヴィアン自身もフランベルク三世の言葉に賛同した。それに対してフランベルク三世が意外そうな顔をしていると、金髪のホムンクルスの少女が話を続ける。
「他の国はともかく、アックア公国はサーシャ殿のゴーレムトルーパーの事を知っても以前と同じ同盟関係を結び続けてくれるでしょう。しかし同じ『秘密』を共有する事になれば両国の関係は更に深まるとは思いませんか? そしてそれは『ソル帝国』が動き出した時に役立つと思いますが?」
「ソル帝国……」
ヴィヴィアンの口から「ソル帝国」の言葉が出た時、フランベルク三世の表情に緊張が走った。
ソル帝国とは惑星イクスの右半分、人類の生活圏の更に南半分のほぼ全域を支配している巨大国家である。
フランメ王国も元々はソル帝国が支配していた一地域で、二百年以上前にフランベルク三世の祖先である国祖の手によって独立し、今の国の基盤を築いたという歴史を持っている。
そのような歴史があるからこそソル帝国はフランメ王国を手に入れようと動き、過去に何度か戦争も起こっていた。今では休戦状態を保っているが、ソル帝国には今も強くフランメ王国に進軍すべきだと言う主戦派がいて、ゴーレムトルーパーの数が倍に増えたという事実はソル帝国の主戦派を刺激する可能性もある。
そしてソル帝国はフランメ王国だけでなくアックア公国も狙っており、アックア公国もフランメ王国程ではないが過去に何度もソル帝国に戦いを仕掛けられた事があった。
ヴィヴィアンが言う秘密、イーノ村にある世界ではまだ未発見とされている十三本目の生鉄の樹の情報をアックア公国と共有していれば、もしソル帝国が動き出してもフランメ王国はアックア公国という裏切らない味方を得ると、この金髪のホムンクルスの少女は言いたいのだ。新たなゴーレムオーブが作られた時にその所有権を決める問題が発生するだろうが、それは今から数十年後の話であるし、アックア公国との関係をより強固にできるならフランメ王国にも利があると考えたフランベルク三世は、目の前にいるヴィヴィアンを見た。
「ヴィヴィアン君。君は作られてまだ一年と少ししか経っていないはずだね。その割には色々と勉強しているみたいだね」
「ええ。マスター殿のお力になれるように沢山勉強しました」
フランベルク三世の言葉にヴィヴィアンは誇るような表情で答えて、フランベルク三世は金髪のホムンクルスの少女に質問する。
「前文明の遺跡の情報をフランメ王国とアックア公国で共有する利点は理解できた。それで? 君は前文明の遺跡をフランメ王国とアックア公国に献上して、両国に何を求めているのかね?」
「はい。私の希望は前文明の遺跡があるイーノ村周辺の地域を、フランメ王国とアックア公国の両国共同の管理地にして、その管理者にマスター殿の実家リューラン家を指名してほしいのです」
フランベルク三世に前文明の遺跡を献上した見返りを聞かれてヴィヴィアンは即座に答える。
前文明の遺跡があるイーノ村周辺の地域、リューラン伯爵領を領主はリューラン家のままでフランメ王国とアックア公国の共同管理地にする。それがヴィヴィアンの狙いであった。
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