五機と六機の違い

 ヴィヴィアンがサイ達に前文明の遺跡を保有していることによる危険性を説明してから二日後。サイ達はフランベルク三世の執務室に来ていた。


 普通、多忙極まる一国の国王にそう簡単に面会できるはずがないのだが、そこはサイがフランメ王国の英雄でフランベルク三世の姪の婚約者であるが故の特別待遇であった。


 今フランベルク三世の執務室に来ているのはサイとサーシャにピオン達四人のホムンクルス、クリスナーガとブリジッタ、そしてサイとサーシャの両親の計十人で、広く作られている筈の執務室が少し手狭に感じられた。


「そうか……。話は分かった」


 サイはさっきから自分達がこの執務室にやって来た要件を話しており、話が終わるとフランベルク三世はそう言って頷いた。


 いきなりサイが大人数を引き連れて面会を求めてきた時は驚いたフランベルク三世だったが、執務室に通した後で彼から聞いた話は更に衝撃的なものであった。


 サイの故郷、イーノ村に隠された前文明の遺跡には世界でも未確認の十三本目の生鉄の樹があり、サイの曽祖父のイーノ・リューランはこれを独占する為に前文明の遺跡がある地を買い取り、そこにイーノ村を作ったこと。


 ドランノーガとなったゴーレムオーブはこの十三本目の生鉄の樹から手に入れたもので、更に新しく作られたゴーレムオーブをサーシャが自分のゴーレムトルーパーにしてしまったこと。


 今回の件でサイ達がイーノ村にある前文明の遺跡……正確には生鉄の樹が自分達の手には余ると判断し、その所有権をフランメ王国とアックア公国に譲ることに決めたこと。


 今までずっと世界に十二本しかないと思われていたゴーレムオーブを生み出す生鉄の樹の十三本目の発見情報。そしてそこから作られたこれも新たなゴーレムトルーパーの情報。


 これらの情報は自国だけでなく他国の情勢も大きく揺るがしかねない重大なもので、それをいきなり自国の英雄である青年から聞かされたフランベルク三世は頭が痛くなる思いだった。


「まさかサイの故郷にそんな秘密があったなんて……」


「十三本目の生鉄の樹だなんて……。世界的な大発見ですよ……」


 サイの話を隣で聞いていたクリスナーガとブリジッタもフランベルク三世と同様に驚いており、驚愕の表情で呟く。そんな二人を見てフランメ王国の国王は、驚いているのは自分だけではないと冷静さを取り戻してサイを見る。


「サイ君。君が故郷にある前文明の遺跡をこちらに献上しようとする話は了承した。今まで遺跡の情報を秘匿していた事と、君の妹が新たなゴーレムオーブを自分のゴーレムトルーパーにしてしまった事も許そう」


「ありがとうございます」


 フランベルク三世の言葉にサイは頭を深く下げて礼を言う。これだけで肩にのしかかっていた重荷がなくなったような気分の彼であったが、国王の話はまだ終わっていなかった。


「しかし何故ここにブリジッタ嬢を連れてきているのか聞いてもいいかね? それとどうして前文明の遺跡を『フランメ王国とアックア公国の両国』に譲ろうと? 我がフランメ王国だけではいけない理由は?」


 フランベルク三世は視線だけを動かしてブリジッタを見ながらサイに質問する。確かにここにアックア公国の公女であるブリジッタを連れて来ず、フランメ王国の人間だけで話を行えばイーノ村にある前文明の遺跡はフランメ王国だけで独占できたのだが、彼はそれをしなかった。


「それは……」


「そこからは私が説明します」


 サイが説明をしようとした時、ヴィヴィアンがフランベルク三世の前に進み出る。


「君は……確かヴィヴィアン君だったね?」


「はい。そしてマスター殿に前文明の遺跡をフランメ王国とアックア公国の両国に渡すようにと言ったのも私です」


 ヴィヴィアンの言葉にフランベルク三世は興味を覚えたようで彼女の目を見る。


「ほう……。ではヴィヴィアン君、何故前文明の遺跡、フランメ王国とアックア公国の両国に献上しようと考えたか君に説明してもらおうか?」


「はい。私が思うに今フランメ王国はゴーレムトルーパーにより急速に力をつけすぎているように感じます。最初フランメ王国のゴーレムトルーパーは三機でしたが、そこにマスター殿のドランノーガが加わりザウレードも帰ってきて五機。更にサーシャ殿のゴーレムトルーパーも加えれば六機となり、ゴーレムトルーパーの数は最初の倍になります」


(それってそこまで大きな問題なのかなー?)


 ここまでの話を聞いてサーシャは、何故ヴィヴィアンがゴーレムトルーパーの数を強調して言っているのか分からなかった。


 すでに周辺の国々にはフランメ王国のゴーレムトルーパーの数がドランノーガとザウレードが加わって三機から五機になる事が伝わっている。そこに更に一機増えても大した違いはないと、軍学校の入学を希望していてもまだ軍の知識が皆無のサーシャには理解できずにいた。


 だがヴィヴィアンはそんなサーシャの内心を見透かしたかのように、彼女の方を一回だけ見ると説明を続けた。


「五機と六機。数字は一つしか違いませんが、ゴーレムトルーパーが一機多いか少ないかで国の軍事力は大きく違います。この情報は周辺の国々に大きな影響を与えるでしょう。友好的な国、友好的ではない国も問わずに。そしてそれはブリジッタ殿の故郷である同盟国のアックア公国も例外ではありません。……最悪、今回の件でフランメ王国とアックア公国の間に不和が生じる可能性も否定できません」


「え……?」


 ヴィヴィアンの説明にサーシャは思わず声を漏らした。自分がゴーレムトルーパーを作ってしまった事でまさかそこまで大きな影響が出るとは夢にも思っていなかったのだ。


 ここにきてサーシャは自分が起こした事の大きさをようやく理解し始めたのだった。

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