財ではなく災いを生む可能性

『『………』』


 ヴィヴィアンの発言により部屋にいる全員が無言となり、彼女の方を見た。


「前文明の遺跡のことをフランベルク陛下とバルベルト陛下に教える? 本気で言っているのか?」


「はい」


 サイの質問に即答するヴィヴィアン。真面目な表情で自分の主人である青年の視線を正面から受け止めて答える彼女の姿は、とても嘘や冗談を言っているようには見えなかった。


「……一体どうしてそんな事を言うんだ? あの遺跡……というか生鉄の樹は、ひいおじいちゃんが巨万の財を生む宝と言って俺達のために遺してくれたもので、それを……」


「ですがもう充分財を生んだと思います。これ以上は財どころか、下手をしたら災いを生むと私は思います」


 サイの言葉の途中でヴィヴィアンはそう断言する。自分達の曽祖父が一族の為に、わざわざイーノ村を開拓してまで国から隠して遺してくれた生鉄の樹が、これ以上は災いを生むと言われてサイとサーシャは驚きで目を見開く。


「わ、災い……!?」


「何でそんな事になるのー?」


 驚いた顔をするサイとサーシャの兄妹にヴィヴィアンが説明をする。


「まず、もう充分財を生んだと言った理由ですが、マスター殿は生鉄の樹からゴーレムオーブを得てドランノーガを作りました。そしてドランノーガを使ってご活躍をしてフランメ王国の英雄となり、クリスナーガ殿とブリジッタ殿という高貴な婚約者、そして伯爵と少佐の地位を得ました。これだけでも生鉄の樹はマスター殿に充分な財を生んだと言えます」


 ここまではサイも異論はなかった。普通に考えれば短期間でここまで出世するなんて考えられず、曽祖父が遺してくれた生鉄の樹は、金以上の財を生んでサイに与えてくれたと言えた。


「それでこれ以上は財ではなく災いを生むと言った理由ですが……マスター殿? マスター殿はゴーレムオーブを売って財に変えるご予定があるのですか?」


「え……?」


 ヴィヴィアンに聞かれてサイは言葉に詰まった。確かに初めてゴーレムオーブを発見した時のサイは、ゴーレムオーブを国に献上することを考えていたが、ピオンの企みによってゴーレムオーブをドランノーガにしてからはそれに乗って活躍してばかりで、サーシャの話を聞くまでゴーレムオーブや生鉄の樹のことを忘れていたのだ。


「マスター殿とピオンはドランノーガのゴーレムオーブを別の前文明の遺跡で偶然見つけたと言ったそうですが、これからゴーレムオーブを売る時も同じような事を言う気ですか? そしてそれが通用すると思いますか?」


「……いや」


 サイはヴィヴィアンの言葉に首を横に振って答えて、そこで初めて自分にはゴーレムオーブを売って財にと変える伝手が無いことに気づいた。生前は大商人であった曽祖父ならゴーレムオーブを上手く売りさばくこともできたかもしれないが、サイにはとてもそんなことができるとは思えなかった。


「ゴーレムオーブから作られるゴーレムトルーパーは、小国なら一機でも攻め落とせる惑星イクス最強の兵器です。それを作り出すゴーレムオーブをどこからともなく持ってきて売ろうとしたり、あるいは貯め込んだりしていると、それをどこからか嗅ぎつけて奪おうとする者が現れたり……最悪、国を落とそうとする危険人物と思われて国から狙われるかもしれませんよ?」


『『……………!?』』


 ヴィヴィアンが語る最悪の展開にサイを初めとする部屋にいた全員が言葉を無くす。しかし誰も彼女の言葉を「考えすぎだ」と笑ったりはしなかった。惑星イクス最強の兵器であるゴーレムオーブは、存在するだけで周囲に大きな影響を与えることをここにいる全員が知っていたからだ。


 ここまでの話を聞いてサイは、曽祖父の遺してくれた前文明の遺跡を保有していることで自分達やイーノ村に危険が及ぶ可能性があるということを理解してヴィヴィアンを見る。


「……だからひいおじいちゃんが遺してくれた遺跡を、生鉄の樹のことをフランベルク陛下とバルベルト陛下に伝えると?」


「はい。……それにそうすることでイーノ村を安全に、そして豊かにすることができるかもしれません」


「っ!? それってどういうことだ?」


「それは……」


 驚いた顔をして聞いてくるサイに、ヴィヴィアンは自分の考えを説明した。

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