ヴィヴィアンの意見

「というわけー」


『『………』』


 ピオン達が帰ってきた後、サーシャが半年程昔に自分に起こった出来事をサーシャが説明すると、それを聞いていたサイ達は全員揃って額に手を当てていた。


 今サイ達がいるのはサイの自宅の一室で、部屋にいるのはサイとサーシャの兄妹二人と、ピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼのホムンクルスの女性四人の計六人である。ブリジッタとサイの両親は別の部屋でお茶を飲みながら談笑していて、サイはそちらの方を羨ましいとこっそりと思うのであった。


「……なぁ、ピオン? 俺達、アックア公国に留学する前にあの遺跡を調べて、その時には二つ目のゴーレムオーブはなかったよな?」


「……はい」


 サイが今から一年以上前に実家にある前文明の遺跡を調べた時のことを額に手を当てながら聞くと、同じく額に手を当てながらピオンが答える。


「そうだよな。……そういえば生鉄の樹って、ゴーレムオーブを木の実みたいに少しずつ作っていくのか? それとも作るのに必要なエネルギーが溜まってから一気に作るのか?」


「私の知る限り後者です。生産に必要なエネルギーさえあれば作るのはすぐですからね」


 次の質問をサイがするとピオンはそれにすぐに答えて、ホムンクルスの少女の言葉に主人の青年は少し考えてから口を開く。


「それってつまりこういう事か? ひいおじいちゃんが何もないって判断して遺跡を閉じた直後に俺達がドランノーガを作ったゴーレムオーブができて、今度は俺達が何もないと思って遺跡を後にした直後にサーシャの見つけたゴーレムオーブができたって事?」


「恐らくは……。ゴーレムオーブを製造するプラント……今は生鉄の樹と呼ぶのでしたね? 生鉄の樹は一つのゴーレムオーブを作ると、内部に溜めたエネルギーを使って次のゴーレムオーブを作ろうとします。しかし現存する生鉄の樹はエネルギーの自己発生率が非常に不安定で、ゴーレムオーブを作るエネルギーが溜まるのに百年以上かかる場合もあれば、数十年ですむ場合もあります。サーシャさんが見つけたゴーレムオーブは、比較的短い期間でエネルギーが溜まって作られたもののようですね」


(何と言うかタイミングが悪すぎないか? ひいおじいちゃんも俺も)


 ピオンの説明を聞いたサイはそう思わずにいられなかった。


 もしサイの曽祖父が遺跡を閉じる前にゴーレムオーブができていたら、サイの曽祖父はゴーレムトルーパーの操縦士になるなりゴーレムオーブをフランメ王国に献上するなりして、今頃サイの家は栄華を極めていただろう。


 そしてサーシャが見つけたゴーレムオーブがもう少し早くできていれば、サイとピオンが発見して今回のようなことにならなかったかもしれない。


「……それで? サーシャ、父さんと母さんはお前がゴーレムオーブを見つけて、それをゴーレムトルーパーにしたことを知っているのか?」


「んー? 多分ー、覚えていないと思う」


 気を取り直してサイがサーシャに聞くと、彼女は首を傾げながら答える。


「多分? それってどういうことだ?」


「実はねー、ゴーレムトルーパーを作っちゃった日にお父さんとお母さんにゴーレムトルーパーのことを話したのー。そしたら二人とも気を失っちゃって、目を覚ますと私が話したことを綺麗に忘れちゃってるのー。それを三回くらい繰り返したから、多分覚えていないと思うよー」


「……サーシャ様の話があまりにも大きすぎて、心の平穏を保つ為に本能で記憶を封じたのでしょうね」


 サーシャの話を聞いてヒルデがサイの両親に何が起こったのか予測する。確かにゴーレムトルーパーの件は国の行く末を左右しかねない重大な問題で、一応肩書きは貴族の男爵家の当主とその夫人だが、実際は辺境の田舎村の村長夫婦でしかないサイの両親には大きすぎる話だろう。


 ただでさえサイ達の件で頭が追いつくのにやっとという状態だったサイの両親は、サーシャまでもゴーレムトルーパーを手に入れたと聞いた事で頭の理解を大きく超えてしまい、ヒルデで言った状態になったようだ。


「父さん、母さん……」


「あの、マスター殿? 少しよろしいですか?」


 サイが自分達のせいで両親が気絶するくらい追い詰められていたことに責任を感じていると、そこにヴィヴィアンが声をかけてきた。


「ヴィヴィアン? 一体どうした?」


「サーシャ殿の話を聞いて考えてみたのですけど……」


 ヴィヴィアンはそこまで言うと一旦言葉を切って、少しためらうような表情を見せてサイに自分の意見を告げる。


「もうこの際、前文明の遺跡のことをフランメ王国とアックア公国の両陛下に知らせてはどうでしょうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る