サーシャの探検
これは今から半年程昔、まだサイとピオン達四人のホムンクルスの女性がアックア公国の士官学校に在学していた頃の話。
「おー、これがお兄ちゃんが言っていた前文明の遺跡の入り口。実家の倉庫にこんなのがあるなんて知らなかったなー。まぁ、ここには滅多に来ないから仕方がないけどねー」
実家の倉庫の中で火を灯したランタンを片手にサーシャは、倉庫の奥にある前文明の遺跡にと続く入り口を見て呟く。相変わらず間延びた口調でマイペースに話す彼女だったが、前文明の遺跡の入り口を見る目には確かな好奇心の光が宿っていた。
サーシャがここに来たきっかけはアックア公国に留学しているサイからの手紙だった。兄からの手紙にはアックア公国での生活の事の他に、ドランノーガにあるホムンクルス製造ユニットからピオンに続く三人のホムンクルスの女性、ヴィヴィアンとヒルデとローゼが現れた事も書かれていた。
その手紙を読んだサーシャは前文明に興味を覚え、今までサイから話を聞いただけで一度も来た事がなかったこの実家の倉庫から入れる前文明の遺跡に来たのだった。
「お兄ちゃんは何もなかったって言っていたけど、やっぱり自分の目で確かめて見たいよねー。それにー、お兄ちゃんが見つけてないものも見つかるかもしれないからねー」
サーシャはそう一人呟くと前文明の遺跡に入っていく。その時の彼女の顔は初めて来た場所を探検する子供のような笑みが浮かんでいた。
「んー……。何もないなー、やっぱりここには何もないのかなー?」
前文明の遺跡に入ってから二時間後。サーシャは前文明の遺跡の通路を歩きながら呟く。
サイの時と同じで前文明の遺跡には何もなく、遺跡に入った時は楽しそうな顔をしていたサーシャも今では退屈そうな顔となっていた。
「……それにしても本当に何もないなー。もしかして誰かが遺跡の物を持って行っちゃったのかなー?」
ピオンから聞いた話ではこの遺跡は前文明の頃に廃棄されたらしいが、それを考えてもここまで何一つないのはおかしいとサーシャは考える。そして彼女の考えは当たっていた。
この遺跡は最初、前文明の頃に作られた机や椅子、今では使い方も分からない機械類があった。しかしそれらは全て、この遺跡を最初に発見して遺跡を隠す目的でイーノ村を開拓したサイとサーシャの曽祖父イーノ・リューランが回収して売り払い、イーノ村開拓の資金としたのだった。
「まぁ、ここまで来たらー、お兄ちゃんがドランノーガを見つけた所まで……きゃっ!?」
サイがゴーレムオーブを手に入れたという遺跡の一番奥にある場所に見に行こうとしたサーシャは、突然その場で転んでしまう。よく見れば彼女が転んだ場所の周囲は、他の遺跡の通路に比べてずっと荒れていて近くには崩壊した部屋まであり、サーシャは床にできた亀裂に足を取られたようだ。
サーシャは知らないが、彼女の近くにある崩壊した部屋はピオン達が保管されていた部屋で、ピオンに命令されたドランノーガによって破壊されたのであった。
「あいたた……。何でここだけ荒れてるのー? あーあ、手をすりむいちゃった……」
転んだ痛みに顔をしかめながらサーシャは立ち上がると、気を取り直して遺跡の奥へと進んで行った。そこで自分の運命が大きく変わる事になると知らずに……。
「おおー。あれがゴーレムオーブを作る……えーと、何とかの樹かー。……あれ?」
前文明の遺跡の一番奥、サイがゴーレムオーブを手に入れてドランノーガを作った広場に辿り着いたサーシャは、ゴーレムオーブを製造するユニットである生鉄の機に目を向けると根元の方に球状の膨らみができている事に気づく。
「あー! アレってもしかしてゴーレムオーブ!?」
サーシャは生鉄の樹の根元にある球状の膨らみがゴーレムオーブであると気づくと、今まで何も見つけられなかったが最後の最後でゴーレムオーブというお宝を見つけた興奮から、思わずゴーレムオーブに近づいて手に触れようとした。だがこの時の彼女の手は、ここに来る前に転んだ事ですりむいていて血がにじんでいた。
ゴーレムオーブをゴーレムトルーパーにする方法は、ゴーレムオーブの表面に血液を付着させること。ただそれだけなのだが、幸か不幸かサーシャはそれをサイやピオンから聞いていなかった。
そして血がにじみ出ているサーシャの手で触れられた瞬間、ゴーレムオーブは光を放って彼女だけのゴーレムトルーパーへと変化した。
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