戦いの後の進化
機獣開眼モードが解除されると操縦席の中でサイ達を拘束していた金属の蔦も解けて、金属の蔦は席の内部へと戻っていく。サイは自由になった手足の感覚を確認しながら前を見ると、操縦席の前方の壁には初めてカロル・マーグヌム・コルヌを使った時と同じ焼け野原だけが映っており、それを見て蛇のモンスターとの戦いが終わったのを実感したのだった。
「勝ったんだな……俺達」
「はい、マスター。ドランノーガの援護、お見事でした」
『うん。本当に凄かったよ!』
サイの呟きにピオンが答えると、それと同時に操縦席の壁に映っている小画面の中のアースレイもそれに同意してきた。
「アースレイさん」
『お疲れ様、サイ。僕とハンマウルスがあんなに苦戦したあのモンスターを一機だけで倒すなんて凄いよね。それに空を飛んだり火の玉を飛ばしたりしたのにもビックリしたけど、あの獣のような動きにはもっとビックリしたよ。ねぇ、僕のハンマウルスもあんな動きが出来るのかな?』
「いいえ。あの動き、機獣開眼モードは飛行機能や遠距離武装と同様に自己進化機能によって現存しているゴーレムトルーパーからオミットされた機能の一つです。ですから今のところ機獣開眼モードを使えるのはドランノーガだけです」
アースレイの質問に答えたのはピオンで、彼女の言葉にアースレイは心からガッカリした表情となる。
『えー? そうなんだ……。あの動きが出来たら僕のハンマウルスももっと強くなれると思ったのになぁ……』
(いや……。あれ、結構大変なんですよ? アースレイさん。……ん?)
「……」
小画面の中で残念がるアースレイにサイが何かを言おうとした時、何か小さな鳴き声が聞こえた気がした。
サイが鳴き声がした方を見ようとすると、機獣開眼モードでの負荷を負ったドランノーガはぎこちない動きで体を鳴き声がした方に向ける。するとそこにあったのは、先程の戦いでドランノーガが斬り落とした二本の蛇のモンスターの首であった。
「……」「……」
蛇のモンスターの首は二本ともまだ生きており、地面を蠢きながらこの場から離れようとしていた。
『うわっ。コイツ、まだ生きていたんだ。流石モンスター、しぶといね』
「ええ。確かに……って、これは?」
アースレイの言葉に同意するサイは、二本の蛇のモンスターの首の断面から肉が盛り上がり、肉体を自己再生能力で再生させようとしているのをみつけた。しかしドランノーガの戦闘で体力のほとんどを消費したのか、その再生速度は非常にゆっきりとしたものであった。
「体を再生させようとしているのか」
「でしたらその前に食べちゃいましょうか♪」
首だけになっても生きて体を再生させようとする蛇のモンスターにサイが思わず呟くと、隣に座るピオンが声をかけてきた。
「……え?」
「マスター、ちょっとだけドランノーガの操縦権をお借りしますね」
突然のピオンの発言にサイが戸惑っていると、ホムンクルスの少女はドランノーガの操縦権を強引に自分の主人である青年から借りる。そしてピオンに操作されたドランノーガはぎこちない動きで動くと、地面を這って逃げようとする二本の蛇のモンスターの首を、下半身の竜の口で捕まえてそのまま食べてしまう。
すると次の瞬間、ドランノーガの機体が光を放つ。それはアックア公国でザウレードとの戦いの最中に自己進化機能を発動させた時と同じ反応であった。
「自己進化機能が発動した……!」
驚くサイを他所に蛇のモンスターの首を食べたことで自己進化機能を発動させたドランノーガは自分の体を変化させていく。やがて進化が完了して光が収まると、ドランノーガの下半身の竜の前腕部が獣の頭部のような外見にと変化していた。
その外見は今ドランノーガが食べた蛇のモンスターの頭部によく似ていた。
「……ふむ。どうやらドランノーガの前腕部に敵を至近距離から攻撃する格闘戦向きの機能が備わったようですね♪」
新たに変化したドランノーガの前腕部の外見とその機能を確認したピオンが満足気に頷く。ドランノーガの弱点であった格闘戦が少しでも改善されたのはサイも嬉しいのだが、今の彼には嬉しさよりも戸惑いの方が勝っていた。
「ドランノーガ……いや、ゴーレムトルーパーってモンスターを吸収しても進化するのか?」
「ええ、しますよ。元々ゴーレムトルーパーはモンスターとの戦いの為の兵器ですからね。むしろモンスターを吸収した方がより強く進化できますよ」
「そ、そうなんだ……」
当然のように答えるとピオンの言葉にサイは驚き、驚いたのは小画面の中のアースレイも同様であった。
『ヘェ〜、そうだったんだ。……あっ! 食べたら強くなれるんだったら、モンスターの首の一本、僕とハンマウルスにくれても良かったんじゃないの!?』
驚いた顔をしていたアースレイは、ピオンが二本あった蛇のモンスターの首を独占した事に気付いて怒った声をあげたのだった。
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