サイの援護

 サイが目を閉じて意識を集中させる。すると彼の中にあるナノマシンとドランノーガを構成しているナノマシンが干渉しあい、目蓋の裏に操縦席の前方の壁に映っている景色とは別の、ドランノーガの上半身の騎士から見た外の景色が浮かぶ上がる。


 こうしている今もドランノーガの下半身の竜は激しく動き蛇のモンスターを攻め立てており、援護しようにも狙いをつけるのが困難に見えた。


「くっ!」


「大丈夫ですよ、マスター」


 援護をしたくても下半身の竜が激しく動き回って視界の景色が目まぐるしく変わるのにサイが歯噛みしていると、彼の横に座るピオンが話しかけてきた。


「ドランノーガは貴方の血から生まれた貴方の半身。この一見無茶苦茶で法則性も何もない竜の動きも『マスターだったらどうするか』という考えから行われています。だからマスターなら……いいえ、マスターにしかドランノーガの動きを読んで援護する事ができないのです」


「俺だったらどうするか?」


 ピオンの説明を受けてサイは、ドランノーガの上半身の騎士の目を通じて、下半身の竜と戦っている蛇のモンスターを見る。


(もし俺がドランノーガだったら狙うのはあの頭か翼……。頭はあの紫の霧が厄介だし、翼は早いうちに潰しておけば動きを制限できるし……いや、違う……?)


 蛇のモンスターを観察しながらどの様に戦うかを考えていたサイであったが、その途中で彼は自分の考えが全くの見当違いである事に気付く。確かにドランノーガは彼が思った通りに蛇のモンスターの頭と翼を重点的に攻めてはいるが、その意味は戦闘を有利に進めようと考えるサイとは違っていた。


(そうだ、違う。ドランノーガは蛇のモンスターを今すぐにでも『倒す』つもりで戦っているんだ。つまりドランノーガの本当の狙いは……)


 そこまで考えたサイが思い浮かべたのは、ドランノーガの下半身の竜の頭部にある武装「カロル・マーグヌム・コルヌ」。


 以前使った時は何百何千といったモンスターの大群を吹き飛ばし、戦場となった大地を広大な焼け野原にしたドランノーガの主力武装。ドランノーガはこの武装を使って蛇のモンスターを倒す為にまず頭と翼を重点的に攻めていたのだ。


 蛇のモンスターの頭部が吹き出す紫色の霧は引火したら大爆発を起こす性質があるので、その性質を利用してカロル・マーグヌム・コルヌの威力を殺される可能性がある。そしてカロル・マーグヌム・コルヌは発射するのに体勢を固定する必要があるので、敵の動きを封じておく必要がある。


 だからドランノーガは蛇のモンスターの頭部と翼を攻めており、そこまで分かればサイも次にドランノーガが取る行動を予測する事ができた。


 現在蛇のモンスターは四本ある首の二本を斬り落とされ、一本は半ば食いちぎられ無事な首はあと一本だけであった。つまり次にドランノーガが狙い、その後に狙うのは……。


「………!」


 すでに蛇のモンスターとの距離を開けていたドランノーガは、カロル・ブラキウムから熱線を放ち最後の首を頭部ごと黒焦げにする。それと同時にサイは自分の意思を機体に送り、援護を開始した。


「カロル・ディギトゥス!」


 サイの声と共にドランノーガの上半身の騎士の両腕から無数の火の玉が発射され、火の玉の群れは蛇のモンスターの体を翼を中心にして焼き、その動きを止める。


「ドランノーガ!」


「………!」


 カロル・ディギトゥスを放ちながらサイが自分の半身である機体の名を呼ぶと、それに応えたのかドランノーガの下半身の竜は前腕部を地面につけ、続いて両脚部のパイルアンカーを地面に突き刺して体を地面に固定する。そして次の瞬間、ドランノーガの下半身の竜の頭部にある角、カロル・マーグヌム・コルヌの砲口が光り、極大の熱線が放たれた。


「ーーーーー!?」


 四本あった首を斬り落とされ、食いちぎられ、黒焦げにされた蛇のモンスターは、悲鳴をあげる事すら出来ずにカロル・マーグヌム・コルヌの熱線に飲み込まれる。


 そしてカロル・マーグヌム・コルヌの熱線の放射が終わり、視界が元に戻るとそこには蛇のモンスターの巨体が跡形もなく消滅しており、それを確認したドランノーガは機獣開眼モードを解除したのだった。

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