失われた機能

 ドランノーガに乗るようになってからサイは、これまで何度も自分が知るゴーレムトルーパーの常識を否定されてきた。他の現存するゴーレムトルーパーが地上戦専用で近接戦の武装しかないのに対し、空を飛んで遠距離から敵に砲撃を仕掛ける自分の愛機に衝撃を受けてきた操縦士の青年だったが、今回のそれは今までの比ではなかった。


 何しろ操縦士の指示なしで動くゴーレムトルーパーなんて、聞いたこともないどころか想像もしたことがなかったからだ。


(自分で考えて戦うゴーレムトルーパーなんて、操縦士が乗る意味なんてあるの……かっ!?)


 ドランノーガの行動に戸惑うサイの体に前方からの重力が襲い掛かる。地面に叩き落とされた蛇のモンスターが動きを見せたので、それを察知したドランノーガが攻撃を仕掛けるべく蛇のモンスターに向かって高速で移動したのだ。


「ーーー!」


 自分に向かってくるドランノーガを迎撃しようと蛇のモンスターが紫色の霧を吹き出す。紫色の霧は触れたものを溶かし、引火すれば大爆発を起こす危険なものであるが、ドランノーガは蛇のモンスターが紫色の霧は吹き出した瞬間に左へ大きく跳びそれを回避する。


「………!」


 左へ大きく跳んで蛇のモンスターの紫色の霧を回避したドランノーガは、脚部と尻尾の噴出口から炎を吹き出しながら再び蛇のモンスターへと向かって高速で突進。ドランノーガの下半身の竜の背部にある超高熱を帯びたブレードにもなる翼「カロル・アーラ・グラディウス」は既に展開されていて、突進してすれ違った際に蛇のモンスターの四本ある首の二本を斬り落とす。


「ーーー! ッ!?」


「………!」


 二本の首を斬り落とされて叫びを上げようとした蛇のモンスターだったが、今のドランノーガが敵の隙を見逃すはずがなかった。ドランノーガは下半身の竜の前腕部にある武装「カロル・ブラキウム」から熱線を連射して、蛇のモンスターに叫びを上げる間も与えずに更なる攻撃を加えるのだった。


「す、凄い……」


 ハンマウルスに乗るアースレイは、蛇のモンスターに猛攻撃を仕掛けるドランノーガを目にして援護することも忘れて呟く。


 アースレイが最初にドランノーガを見た時、彼は重武装かつ重装甲の機体で飛行能力はあるが高速機動と近接戦は苦手な機体だと思い、そしてその感想は正鵠を射ていた。だが今のドランノーガは、高速戦闘を得意とする現存のゴーレムトルーパーと引けをとらないどころかそれを上回る高速戦闘を見せている。


 こうしている今もドランノーガは地を走る流星のように速さで蛇のモンスターに接近し、嵐のように激しく敵に喰らいついては殴りかかり、かと思えば距離を取って雨のような無慈悲な熱線の連射を浴びせる。その姿は見るところ敵無しに見えて、それがアースレイの歴戦のゴーレムトルーパーの操縦士の矜持に触れて、そこで彼はドランノーガに乗っているホムンクルスの少女が、あれこそがゴーレムトルーパーの真の姿と言っていたのを思い出す。


「あれがゴーレムトルーパーの真の姿……。ハンマウルス、君もあんな風になれるのかい? さっきから様子が変だったのもそのせいなの?」


 アースレイはハンマウルスの操縦席の床を見下ろして自分の愛機に語りかけるのだが、現在このゴーレムトルーパーの真の姿を発揮できるのはドランノーガだけであった。


 今のドランノーガの姿は「機獣開眼モード」と言い、ここにいる蛇のモンスターのような自分よりも強大な敵と闘うための機能だ。だが現在のゴーレムトルーパーの戦いではモンスターは驚異にならず、ゴーレムトルーパーが相手の時は双方機体が完全に破壊される事態を防ぐ為、どちらかが一定のダメージを受けると撤退か降服をするので機体と操縦士の両方に大きな負担を与える「機獣開眼モード」を使う機会は全く無くなり、やがて自己進化機能によって僅かな動作の名残を残して排除された失われた機能なのである。


「……あれ?」


 最早機獣開眼モードになったドランノーガの動きについていけず戦いを見守るだけとなったアースレイは、ふとある違和感に気づいた。


「何でアレ、動いていないの?」


 アースレイが見ているのはドランノーガの上半身の騎士。鋼鉄の竜の背部に生えている鋼鉄の騎士は、鋼鉄の竜の激しすぎる動きに振り回されており、その姿はどこか滑稽であった。

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