ゴーレムトルーパーの真の力

『ちょっ! 今度は一体何なのさぁ!?』


「ーーー!?」


 突然の出来事にアースレイと蛇のモンスターが動きを止めてドランノーガの方を見て、ゴーレムトルーパーと巨大なモンスターに見られているなかでドランノーガの機体に変化が生じた。


 ドランノーガの内部のジェネレーターの出力が瞬時に最大となり、装甲と装甲の隙間から緑色の光が漏れ出て、装甲の表面に緑色の光の線の幾何学模様が浮かび上がる。


 上半身の騎士の両腕と下半身の竜の前腕部にある発射口から炎が噴き出て、脚部と尻尾にある噴出口そして頭部の主砲の砲口いつでも起動できるように眩い光が灯る。


 上半身の騎士と下半身の竜の口の部分が展開し、上半身の騎士はこれから起こる虐殺を嗤うようなような、下半身の竜はこれから獲物に喰らいつくような凶悪な面相に変化する。


 そして変化が生じたのは機体の外見だけではなかった。


 変化は操縦席の中でもおこっており、操縦席から無数の金属の蔦のようなものが生えると、金属の蔦は操縦席に座っているサイ達の体に巻き付き、まるで拘束するかのようにきつく固定する。


「これは一体……!」


「マスター。あまり動かず、喋らない方がいいですよ?」


 突然体を固定されたサイが周りを見回しているとピオンから注意される。


「何?」


「覚悟してくださいね、マスター? 今のドランノーガはかなりの暴れ馬ですから」


「暴れ馬? それってどういう……っ!?」


 ピオンの言葉の意味を訊ねようとしたサイだったが、突然前方から強い衝撃を受けて言葉が途切れてしまう。


(か、体が……! 一体何が……っ!?)


 まるで体を押しつぶすような衝撃にサイが何事かと前を見ると、操縦席の前方の壁には先程の紫色の霧の爆発でその衝撃を利用して上空に逃れていたはずの蛇のモンスターの姿が、至近距離で映っていた。


(モンスター!? これってまさか!)


 至近距離で映っている蛇のモンスターの姿を見て、サイは一体何が起こったのかを理解する。


 つまりドランノーガは、脚部と尻尾の噴出口から炎を吹き出す事で急激な加速を得て、一瞬で上空の蛇のモンスターの近くまで跳んだのだ。先程の体を押しつぶすかのような衝撃は、その超加速による反動だったのだ。


『………!』


「ーーー!?」


 上空まで飛び上がったドランノーガは、尻尾の噴出口から炎を噴き出して推進力を得ると、そのまま下半身の竜の前腕部で蛇のモンスターを殴りつける。そしてその直後、蛇のモンスターを殴りつけた前腕部の発射口から熱線が放たれ、至近距離から蛇のモンスターの鱗や肉を焼いた。


「ーーーーー!」


 至近距離から熱線で体を貫かれて蛇のモンスターが悲鳴をあげるがドランノーガの攻撃はまだ終わっていない。


 跳躍の勢いがなくなり落下を始めたドランノーガは、下半身の竜が蛇のモンスターの首を一本に噛み付くと、その場で脚部と尻尾の噴出口から噴き出る炎の推進力を使って、蛇のモンスターごと高速で回転をしながら地面に落ちていく。そして地面が近づいてきたところでドランノーガは噛み付いていた蛇のモンスターの首の一本を離し、回転の勢いを利用して地面に叩きつけた。


「ーーーーー!」


 体を熱線で焼かれた上に勢い良く地面に叩きつけられ苦悶の声を上げる蛇のモンスターの横に着地するドランノーガ。その操縦席の中でサイは思わずといった風に口を開く。


「な、何なんだ? 一体どうしたんだ、ドランノーガは? 『俺は操縦していないのに勝手に動き出すだなんて』……!?」


 信じられないといった表情で呟くサイ。彼の言う通り、ドランノーガは操縦士の指示なく動き、蛇のモンスターを攻撃していたのだった。


「ピオン? もしかしてお前がさっきのは操縦したのか?」


 自分が操縦権を渡していない以上あり得ないと分かっていてもサイがピオンに訊ねると、ホムンクルスの少女を首を横に振って答えた。


「いいえ、私は何もしていませんよ。あれは間違いなくドランノーガが一人で行った行動です」


「ドランノーガが一人で行動するだって?」


 ピオンの言葉にサイは表情にある困惑の色を更に深め、ホムンクルスの少女は首を一つ縦に振ると口を開く。


「はい。そしてこれこそがドランノーガの……いいえ、ゴーレムトルーパーの真の力です」


「ゴーレムトルーパーの真の力?」


「そうです。ゴーレムトルーパーは元々モンスターとの戦闘を目的に作られた兵器です。しかしモンスターは個体ごとによって姿や動きが大きく異なっていて、ゴーレムトルーパーの操縦士がその動きに対応できない場合も生じます。それに対応する為ゴーレムトルーパーには、機体を十全に動かして戦う獣のような人工知能が搭載されており、機体のリミッターを外すと同時にその人工知能が起動するモードが設定されているのです」


「………」


 説明を聞いてサイは思わずもう一度操縦席の周囲を見回し、その横でピオンが説明を続ける。


「今のドランノーガは自分で考えてモンスターと戦う一匹の獣。操縦士の意思を読み取って敵を判断し、自動で敵と戦い、倒す。これがゴーレムトルーパーの真の力、真の姿なのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る