蛇のモンスターの本気

「ーーーーーーーーーー!」


 空に跳躍したハンマウルスが地面に着陸すると、ハンマウルスによって地面に叩き落とされた蛇のモンスターが雄叫びを上げながら体を起こす。体を起こすのと同時に、モンスターの体にあったドランノーガとハンマウルスによってつけられた火傷や傷が、再生能力によって瞬く間に消えていく。


「もう傷が……!」


『あーもー! いつ見てもあれは嫌だよね』


 再生能力によって自分達がつけた傷を再生させるモンスターの姿に、サイとアースレイが思わず言葉を漏らす。モンスターの強靭な生命力と再生能力については理解しているつもりでも、実際に今までつけた傷が何事もなかったように再生していくのを見せられると、強い焦りが生じてしまうのも仕方ないだろう。


 しかし今回この場で焦りを感じていたのはサイ達だけでなく、蛇のモンスターも同様であった。


 蛇のモンスターはここに来る原因となった別のモンスターとの戦いで体力を消耗しており、それを回復するために安全に狩れて数も多い人間を食べようとしたのだが、そこを二体の鋼鉄の獣に邪魔されてしまった。狩りを邪魔された上、ただでさえ消耗していた体力を更に消耗させられた蛇のモンスターは、二体の鋼鉄の獣、ドランノーガとハンマウルスを早急に排除すべき敵だと判断した。


「ーーーーー!」


 ドランノーガとハンマウルスを早急に排除すると決めた蛇のモンスターは、四つの頭部にある合計八つの瞳に殺意の光を宿らせて、二機のゴーレムトルーパーを睨み付ける。


『うわぁお。あのモンスター、ヤル気満々だね? ここからが本番ってヤツ?』


 こちらに向けて殺意の目を向けてくる蛇のモンスターにアースレイはおどけたように言うと、それを合図にしたかのように蛇のモンスターは胴体に生えた翼を羽ばたかせて巨体を宙に浮かばせた。


『ヤバッ! あのモンスター、また空に空に逃げる気だ! サイ!』


「分かっています! 『カロル・ディギトゥス』!」


『………!』


 サイはアースレイに返事をすると同時に、上空に逃げようとする蛇のモンスターの動きを妨害しようと、ドランノーガの上半身の騎士の両腕から無数の火の玉を発射させる。しかし蛇のモンスターはそんなドランノーガの攻撃を予測していたかのように、四つの頭部の顎から一斉に紫色の霧を噴き出した。


 ドランノーガの放った火の玉の群れと蛇のモンスターが放った紫色の霧は、丁度両者の中間の位置で接触した。その次の瞬間……。


 ーーーーーーーーーーーーーーー!!


 火の玉に触れた紫色の霧が大爆発を起こし、爆発の衝撃がドランノーガとハンマウルスを襲う。


「なっ……!?」


『モンスターの吐いた霧が爆発したぁ!?」


「マスター! 上です!」


 サイとアースレイが爆発の衝撃に耐えながら目を白黒させていると、ピオン警告がサイの耳に届く。上を見ればすでに上空へと飛び上がった蛇のモンスターの姿があり、蛇のモンスターは四つの頭部の下にある四本の首を膨らませるという動作をとっていた。


「……っ!」


 首を膨らませる動作をとっている蛇のモンスターを見た瞬間、サイは本能的に危険を感じて考えるより先にドランノーガをこの場から離れるようドランノーガを動かしていた。それはハンマウルスに乗るアースレイも同様で、二機のゴーレムトルーパーが動いた瞬間、蛇のモンスターは先程と同じようにその四つの頭部から紫色の霧を噴き出した。


 蛇のモンスターが噴き出した紫色の霧は、先程までドランノーガとハンマウルスが立っていた地面に接触すると地面をドロドロに溶かして、それを見たサイとアースレイは驚きで目を見開いた。


『ええっ!? 地面が溶けたぁ!?』


「な、何だあの霧は!?」


 アースレイとサイが蛇のモンスターの攻撃に驚く横で、ピオンは冷静な目で蛇のモンスターを観察していた。


「あの巨体で空を自由に飛ぶ飛行能力、加えて可燃性の溶解液の霧状散布ですか……。これは中々の戦闘力。前文明がモンスターを創造した『BSプラン』、どうやら完全な失敗ではなかったみたいですね。しかし今のドランノーガでは勝機は薄いですね」


「な、何だって!?」


 隣のピオンの呟きはほとんど聞こえなかったが、それでも「勝機は薄い」の部分だけははっきりと聞こえたサイは絶望的な気分となる。だがピオンは自信ありげな顔を自らの主人の青年に向ける。


「安心してください、マスター。確かに『今の』ドランノーガでは勝機は薄いですが、マスターが命じてドランノーガの、ゴーレムトルーパーの『真の力』を発揮すればあんなモンスター、私達の敵ではありません♪」


「ドランノーガの、真の力?」


 サイはドランノーガの、ゴーレムトルーパーの真の力と言われても、それがどんなものは分からなかった。


 しかし今までピオンはサイに偽りを言ったことがなく、これまでも彼女の助言のお陰で買ってきた青年は、今回もホムンクルスの少女の言葉を信じてみることにした。


「……よく分からないけど。ドランノーガ、お前に隠された真の力があるならそれを俺に見せてみろ。そしてあのモンスターを倒してみせろ! 惑星イクスの最強兵器!」


『………!!』


 サイが命じた瞬間、ドランノーガの上半身の騎士と下半身の竜の目が強い光を放った。

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