親しみやすい上官

『アースレイ・トールマン准将ですか?』


 アースレイが空を飛ぶゴーレムトルーパーを見上げていると、ハンマウルスの操縦席の壁に小画面が現れて、小画面の中にいるフランメ王国の軍服を着た青年が彼に話しかけてきた。


「え? キミは?」


『俺はサイ・リューラン少佐と言います。今空にいるゴーレムトルーパー、ドランノーガの操縦士で、これよりトールマン准将を援護……』


「ああー! 報告にあった新しいゴーレムトルーパーの操縦士ってキミか! そのゴーレムトルーパーって、ドランノーガって言うんだ? カッコいいね!」


 小画面の中の青年、サイの名前を聞いたアースレイは戦闘中である事も忘れてハイテンションになって話しかけた。




「……何と言うか、賑やかな方ですね」


「そうだな……」


 ドランノーガの操縦席で、サイの隣からアースレイの言葉を聞いていたピオンは思わず呟き、それにサイは頷いた。


「というかあの人、本当にトールマン准将なのですか? というか男なのですか?」


「……多分な」


 操縦席の壁に映る小画面の中のアースレイを見てかなり失礼な事を口にするピオン。しかしサイはそんなホムンクルスの少女を叱ろうとせず、自信なさげな表情で答える。


 何故なら小画面の中のアースレイは、ほとんどピンク色に見えるストロベリーブロンドの髪を腰まで伸ばした中性的な顔立ちをした外見年齢十代後半の美少年であり、今は男物の軍服を着ているから男だと分かるが、もし女物の服でも着ていたら女性と間違えてしまうかもしれなかった。サイ達が聞いているアースレイ・トールマン准将は、二十年以上もハンマウルスの操縦士を務めている歴戦の軍人であり、とても小画面の中の女性に見間違えてしまいそうな美少年とはイメージが結び付かなかったのだ。


「あの……貴方がアースレイ・トールマン准将で間違いないですよね?」


「そうだよ。僕がフランメ王国の准将でゴーレムトルーパー、ハンマウルスの操縦士のアースレイ・トールマン。永遠の十七歳さ☆」


 失礼を承知した上でサイがアースレイに訊ねると、アースレイは特に怒った様子もなく、ピースサインの形にした左手を横にして顔の前にかざしながら答えてくれた。


「……………何と言いますか、妙に似合っているのが腹立たしいですね」


 ピオンが小画面の中で笑顔を浮かべて自己紹介をしてくれたアースレイを半目になって見ていると、別の小画面の中に映っているヴィヴィアンとヒルデとローゼが首を傾げていた。


『永遠の十七歳? 一体どういうことですか?』


『さあ? 私にはよく分かりません……』


『ふふっ♪ では私も分からないということにしておきましょう。ちなみに聞いた話ではトールマン准将のご年齢は十七歳ではなく今年で三十は……』


『わー! わー! わー! とにかく同じゴーレムトルーパーの操縦士同士、仲良くしようね。あと僕のことはアースレイでいいからね?』


 アースレイはヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼの会話を大声を出して遮ってサイに言うが、サイはそんなアースレイの言葉に戸惑った表情を浮かべる。


「い、いえ、トールマン准将を呼び捨てにするのは流石に……」


『アー・ス・レ・イ!』


 階級が三つも上の人間を呼び捨てにするのは不味いと思ったサイだったが、言葉の途中で怒った顔をしたアースレイが自分の名前を強調しながら言い、それを聞いたサイはこの小画面の中の性別不詳の准将には何を言っても無駄だと理解した。


「わ、分かりました。アースレイ……さん」


『んー、まだ固いけど今はそれでいいや♪ それじゃあこれからよろしくね、サイ』


「あ、はい。よろしくお願いします」


 サイとアースレイの会話を横で聞いていたピオンが、自分の主人である青年に小声で話しかける。


「何だか非常に自由な人みたいですね?」


「そうだな。……まぁ、親しみやすい上官だと思えば……!?」


『ーーーーー!』


 ピオンにサイが返事をしようとした時、上空から大音量の獣の叫び声が聞こえてきた。叫び声が聞こえてきた方を見ると蛇のモンスターがこちらに向かって飛んで来ていて、その体からは先程ドランノーガの武装の一つ「カロル・ディギトゥス」でつけた傷が再生能力で再生したのか見えなかった。


『あ、ヤバッ! 忘れてた!』


 小画面の中のアースレイが呑気な台詞を口にするが、それを責める者はここにはいなかった。サイの隣に座るピオンが申し訳なさそうな顔をしてサイに謝罪する。


「すみません、マスター。戦闘中だというのに敵のモンスターの動きに注意するの忘れていました」


「ああ、いや……。気にしないで」


 よく見れば小画面の中のヴィヴィアンとヒルデとローゼもピオンと似たような表情をしていたが、サイは彼女達四人を責める事はしなかった。何しろモンスターの事を一時的に忘れていたのは彼も同じだし、その原因がこの親しみやすい上官との会話なので責められるはずがなかった。

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