ドランノーガ参戦

 フランメ王国の最西端にあるウォーン砦から更に西にある、モンスターの支配圏である密林を目前にした荒野。そこで二つの巨大な影がぶつかり合い、戦いの嵐を吹き荒らしていた。


 二つの巨大な影のうちの一つは、巨大な獣に乗る騎士の外見をした鋼鉄の巨像、惑星イクス最強の兵器ゴーレムトルーパー。このゴーレムトルーパーは、フランメ王国に所属しており今回ウォーン砦の防衛の為に待機していた機体で、機体の名前は「ハンマウルス」といった。


 ハンマウルスは、鳥のような巨大な嘴と二本の角を持った頭部、胴体の左右に生えた小さな翼、先端が無数の棘がついた鉄球の長く強靭な尻尾といった鳥と竜の中間のような姿の獣の背部に、戦鎚を持った騎士の上半身が生えているという外見をしていた。その外見は見る者に畏怖を与えると同時にどこか愛嬌を感じさせるものであったが、今のハンマウルスは全身のいたるところに傷を負っており、その姿からは悲壮感が漂っていた。


「あーもー! イライラするなー!」


 ハンマウルスの操縦席で操縦士のアースレイ・トールマンは内心の苛立ちをそのまま声に出す。


「この僕が! 僕のハンマウルスがここまで苦戦するだなんて!」


 アースレイは苛立ちのままにそう叫ぶと、操縦席の前方の壁が映し出す前方の景色に怒りの視線を向ける。その視線の先にはハンマウルスと戦っているもう一つの巨大な影、モンスターの支配圏である密林からやって来た一匹のモンスターの姿があった。


 ハンマウルスの前方にいるモンスターは巨大な蛇に似た姿をしていた。何十メートルもある巨体で、身体の真ん中辺りには巨大な翼が生やしていて、そこから身体が四つ又に分かれて先端にはそれぞれ蛇の頭部が一つずつ、合計で四つの頭部があってそれぞれの頭部が牙を見せてハンマウルスを威嚇している。


「何なのさ、アレ? あんなに大きくて、しかも空を飛ぶモンスターなんて反則じゃないの?」


 前方の蛇のモンスターから視線を外さずにアースレイが呟く。彼は今から二十年程昔にハンマウルスの操縦士となって今日まで多くのモンスターと戦ってきた歴戦の操縦士であるが、あれ程の巨体である上に空を飛ぶモンスターなんて初めてみた。


 人類の生活圏に出現するモンスターは全て小型で空を飛ぶ事が出来ず、モンスターの支配圏から侵入してきたモンスターもそれより多少サイズが大きくて手強いくらいであった。


 前文明の崩壊から数百年の間、飛行能力を持たない小型のモンスターとしか遭遇してこなかった。それによりゴーレムトルーパーの自己進化機能が飛行能力を不要と判断したのがゴーレムトルーパーから飛行能力が失われた理由の一つなのだが、今回のこのモンスターの襲撃は完全な不意打ちと言えた。


 空を飛ぶモンスターとの戦闘を全く想定していなかったアースレイは、蛇のモンスターに中々攻撃を与える事が出来ず、逆に彼の乗るハンマウルスは蛇のモンスターの攻撃を致命傷こそ避けているものの何度も受けて全身に傷を負ってしまっていた。


「それにあのモンスターを見だしてからハンマウルスの調子が何だか変なんだよね?」


 アースレイは自分の愛機の不調に首を傾げながら呟く。彼の言う通り、あの蛇のモンスターと対峙し始めた時からハンマウルスは小さな不調を訴え出したのだ。


 まるでハンマウルスが自分から勝手に動き出しそうな感覚。操作には支障はないのだがアースレイは今までなかった愛機の不調に違和感を感じていた。


「でも今はそんな事を気にしている場合じゃないよね」


 アースレイの視線の先では蛇のモンスターが空中で旋回をした後、ハンマウルスに向かって急降下をしてきた。


「来る! ……えっ?」


 四つの頭部の牙を見せながらこちらへ向かって急降下して来る蛇のモンスターを迎え討とうとアースレイが身構えた瞬間、戦場に変化が起こった。


「………!?」


 空を飛ぶ蛇のモンスターが急降下を始めた時、その更に上空から無数の火の玉が降り注いできて蛇のモンスターの巨体を焼いたのだ。突然の不意打ちに蛇のモンスターは悲鳴を上げると、ハンマウルスへの攻撃を中断して上空へと逃れる。


「え? え? 何アレ? 援軍?」


 急な出来事にアースレイが驚きながら火の玉が降ってきた方を見ると、そこには空を飛ぶ鋼鉄の竜騎士の巨像の姿が見えて、それを見た彼は驚きのあまり目を見開く。


「空を飛ぶモンスターの次は空を飛ぶゴーレムトルーパー? 一体何がどうなっているの?」

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