出発前のトラブル
その日、サイは妹のサーシャと両親に加えて、ピオン達四人のホムンクルス、クリスナーガとブリジッタの二人の婚約者を加えて朝食をとっていた。両親が近いうちにイーノ村に帰ると言い、それに対してサイがだったらその前に王都を見学して行ったらどうだろうと提案し、朝食をとりながら王都を見学する予定を立てていると、そこに突然血相を変えた王宮からの使いがやって来て「西の空に信号砲が放たれた」と報せてきた。
信号砲とは、フランメ王国の西の果ての国境にあるウォーン砦がモンスターがモンスターの支配圏から侵入して来た時に使用する緊急用の連絡手段であった。ウォーン砦には最低一機のゴーレムトルーパーが待機しているが、モンスターの侵入を確実に阻止する為、信号砲が空に上がった際には王都のゴーレムトルーパーはウォーン砦に急行する事になっているのである。
そしてそれはフランメ王国の新たなゴーレムトルーパー、ドランノーガの操縦士であるサイも例外ではなく、彼と彼に従う四人のホムンクルスは、サーシャとサイの両親をクリスナーガとブリジッタに任せて王宮からの使いと共に王宮へと向かったのだった。
「よく来てくれたね、サイ君。それにピオン達も。早速で悪いが本題に入ろう。今から少し前に西の空に信号砲が上がった。これは西のウォーン砦でモンスターの侵入が確認された事を意味する」
サイ達が王宮にある国王の部屋に通されると、そこで待っていたフランベルク三世がやって来たサイ達を労うとすぐに信号砲の件について話し始める。
「現在ウォーン砦には我が国が保有しているゴーレムトルーパーの一機『ハンマウルス』が待機しており、今頃はモンスターの支配圏から侵入して来たモンスターと戦闘に入っているだろう。私達はモンスターの侵入を確実に阻止する為にこれからウォーン砦に急行せなばならない。そして今王都にあるゴーレムトルーパーは私の『リードブルム』と君のドランノーガだけだ。そこで飛行能力を持つドランノーガに乗るサイ君達には先にウォーン砦まで行ってハンマウルスの援護をしてほしい」
「はい!」
祝勝パレードと婚約パーティーが行われた日に少佐の階級を与えられたサイは、すでに立派なフランメ王国の軍人である。フランベルク三世からの指令を聞いた彼はフランメ王国軍の敬礼を取って返事をして、それを見てフランベルク三世は小さく笑みを浮かべた。
「ふっ。初めての敬礼にしては中々だね。……ドランノーガの発進場所は王宮の前にある広場を無人にして用意してある。急いで出発してほしい」
『『はい』』
フランベルク三世の言葉に今度はサイだけでなくピオンとヴィヴィアン、ヒルデにローゼの四人のホムンクルスも一緒になって返事をした。
「よし。それじゃあ、ドランノーガを出すぞ」
王宮の前にある広場でサイは「倉庫」の異能で異空間に収納していたドランノーガを呼び出す。すると広場を封鎖していた軍人達が、突然現れたドランノーガの姿を見て驚きの声を上げる。
「おお、あれがドランノーガか」
「これが我がフランメ王国の新たな守護神」
「パレードの時にも見たがなんと立派な……」
「いや、ドランノーガの凄いが、あの『倉庫』の異能も凄くないか?」
「ああ。何もないところからいきなりゴーレムトルーパーを呼び出すだなんて……。もしこれが敵だったら……」
周囲の軍人達の言葉を聞き、ピオンが上機嫌な顔となってサイを見る。
「ふふっ♪ 大人気ですね、マスター♪ この調子でどんどん活躍して出世していきましょう。まずは手始めにモンスター退治です」
嬉しそうに言うピオンにヴィヴィアンとヒルデとローゼの他の三人のホムンクルスも頷く。
「はい。私もマスター殿のサポートを頑張ります」
「愛しのマスターの補佐をするのが私達の存在意義ですからね」
「そう言う事です。ですからマスター様も今回の初任務も緊張しないでいいですよ」
「ああ、ありがとう。皆」
サイが自分に従ってくれる四人のホムンクルスの女性達に礼を言っていると、公園を封鎖している軍人達がいる方が急に騒がしくなった。
「お、おい、お前! そこで何をしている!?」
「ここは今、陛下の命令で封鎖されているんだぞ!」
「ちょっと待て。彼女は確か……」
騒ぎが起こっている方を見ると、そこには一人の軍服を着た女性が公園を封鎖している軍人達と揉めている姿があった。そしてサイ達は軍人達と揉めている女性に見覚えがあった。
「アイリーン……」
サイが思わずといった表情で女性の名前を呟く。
軍人達と揉めている女性はサイの幼馴染であるアイリーンであった。彼女は親衛隊の軍服を着てはいるが所々乱れている上に表情もやつれていて、遠目から見ても普通ではないのが分かった。
「………!」
アイリーンはサイ達の視線に気づくと「超人化」の異能を発動させて強引に自分に群がる軍人達を振りほどき、サイの元へ向かう。そして幼馴染の前に立った彼女は、相変わらず傲慢極まりない口調で言う。
「サイ。私をドランノーガに乗せなさい」
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