一斉の謝罪
『『サイ・リューラン! 以前は本当にすまなかった』』
『『サイ・リューランさん! 本当にごめんなさい!』』
「ええ……?」
サイの同級生達が長時間頭を悩ませて出した結論は、全員で誠心誠意サイに謝罪するというものであった。
婚約パーティーもほとんど終わり、会場内で招待客同士が話し合い始めた時、会場のホールの近くの大部屋に呼び出された思ったら、数十人の男女に一斉に深く頭を下げられたサイは思わず困惑した顔となった。深く頭を下げたまま動かない軍学校時代の同級生達を前に、サイがどうしたらいいか分からないでいると、彼と一緒に大部屋に来ていたクリスナーガが声をかけてきた。
「ねぇ、サイ? 皆もこうして謝っているんだし許してあげたら? 今まで何もしなかった私もあまり偉そうな事は言えないけど、過去の事にこだわりすぎるのは良くないと思うよ?」
「いや、俺は何もそこまでこだわってなんか……?」
戸惑いながらも答えるサイの言葉にクリスナーガは首を傾げる。
「そうなの? でも彼ら、招待状と一緒に昔貴方を虐めた事を詳しく書いた手紙を送られたって言ってたけど?」
「え? 何それ? そんな手紙俺は知らな……まさか!」
「~~♪」
全く身に覚えのない手紙の話を聞いてサイは一瞬訳が分からないといった顔をするが、すぐに一つの心当たりに気づき、自分の背後を振り返る。サイの視線の先では彼に従うホムンクルスの一人、ピオンが明後日の方向を見て素知らぬ顔で口笛を吹いていた。
ここにいる軍学校時代の同級生達に招待状を送ったのも、過去の虐めの事を書いた手紙を送ったのも十中八九ピオンだと考えたサイは、気を取り直すと今だ頭を深く下げた体勢のままの同級生達に向き直った。
「あー、その、何だ? とにかく皆、頭を上げてくれないか? 俺もそこまで気にしていないから、皆にやり返すとか考えていないから安心してくれ」
『『………!』』
サイがそう言った途端、同級生達は安堵の表情となって頭を上げた。
「ゆ、許してくれるのか? ほ、本当か?」
「ありがとう。本当にありがとう」
「よかった。これで勘当されずにすむ……」
「許してくれて助かった。正直、許してもらえないかと……」
「ありがとう、サイくん。それとごめんなさい」
サイに許された事により同級生達はそれぞれ彼に対する感謝と謝罪の言葉を口にする。そんな同級生達の表情は明るく、先程まで重苦しかった部屋の空気も軽くなった気がしたのだが……。
「ちぇー……」
ただ一人、ピオンだけはこの結果にやや不満があったようで、拗ねて小石を蹴るような動作をしていた。
『『……………』』
そんなピオンの姿に彼女をよく知るサイ達だけでなく、彼女をよく知らない同級生達まで言い知れぬ不安を感じるのであった。
「……ピオン。貴女の気持ちは分かるけど、マスター殿は彼らを許したのだから、妙な事は考えない方がいいよ」
「ヴィヴィアンさんの言う通りです。あまりにやり過ぎると愛しのマスターを哀しませることになりますよ?」
「もし復讐を続けるとしても、その場合はマスター様の同意をとってからじゃないと楽しめないとおもいますよ?」
ヴィヴィアンとヒルデとローゼに言われてピオンは何かを諦めたかのように首を横に振る。
「はぁ……。分かっていますよ。マスターが彼らを許して、彼らにもマスターに敵対する意思が感じられない以上、私が勝手に攻撃する訳がないじゃないですか? あーあ、せっかく彼らが攻撃の意思を見せたら即座に叩き潰せるよう、国王陛下に彼らの情報を横流ししてもらったのに無駄になっちゃいました」
『『……………!?』』
ため息を吐いたピオンの言葉にサイ達と同級生達はそれぞれ違った意味で驚いて彼女を見る。そしてピオンは同級生達の方は無視してサイ達の方を見て笑顔を浮かべる。
「どうしたんですか、意外そうな顔をして? まさか私がマスターの意思に反して彼らを破滅させるとでも思っていましたか? 私が攻撃するのはマスターに敵意を持つ者だけです。ここにいる同級生の方々はマスターに謝罪をしてマスターに敵意を持たない事を証明しました。だから私はこれ以上彼らには何もしません。……そう、彼らには、ね」
「……? 彼らには?」
ピオンの言葉に何か含むものを感じたブリジッタが訊ねると、赤紫色の髪をしたホムンクルスの少女が頷く。
「そうです。どうやら『この場にいない一人』はまだ見当違いの理由でマスターに敵意を懐いているようですから」
そうブリジッタに答えるピオンの顔には「この場にいない一人」に対する怒りだけでなく、呆れや歓喜といった感情が浮かび上がって複雑に混ざり合っていた。
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