婚約パーティー開始
サイとクリスナーガ、ブリジッタの婚約パーティーの会場である王宮のホールには大勢の人達が集まっていた。その人達の大半は、フランメ王国とアックア公国の大貴族や有力商人といった両国でも高い地位を持つ人達で、彼らは上等な布で仕立てられた礼服やドレス、大粒の宝石を使用した装飾品を見事に着こなしている。
そんな見るからに上流階級の人達に混じってサイの両親とサイの妹であるサーシャの姿もこのパーティー会場にあった。彼らはこの婚約パーティーの主役であるサイの家族であるので招待されていたのだ。
「な、何だか私達……場違いじゃないか……?」
周囲の人達の上流階級の気配に気圧されたのか、サイの父親が周りを落ち着きなく見回しながらそう言い、サイの母親も何も言わないが居心地が悪そうにしていた。サイの両親はパーティー会場に来た際に、パーティー用の礼服とドレスを貸してもらっているのだが、明らかに服に着られている感じがして似合っているようには見えなかった。
そんな両親を他所に貸し出されたドレスに着たサーシャは、興味深そうに周囲の様子やパーティー会場に出されている料理を観察していた。何しろ王宮で開催されるパーティーに招待されるなんて一生に一度あるかないか経験なので、ここで見た事を記憶に残そうと思ったのだ。
「ふーん。王宮の中ってこうなっているんだー。それに出てくる料理もやっぱりイーノ村での食事とは比べ物にならないくらい美味しそー。……あれー?」
周囲を観察していたサーシャはパーティー会場の一角に数十人の男女、パーティーに招待された招待客の半分くらいが固まっているのに気づいた。彼らは皆、サーシャより少し年上なくらいで、自分の父親と同じくらい落ち着きなく周りを見回しているのが少し気になった。
「彼らはー?」
「あの人達はマスターの軍学校時代の同級生の方達です」
サーシャの呟きに答えたのはドレス姿のピオンであった。彼女の後ろにはヴィヴィアンとヒルデとローゼの姿も見えた。
「あっ。ピオンさん……って、凄い綺麗ですねー。他の皆もドレスが似合っていて綺麗ー」
ピオンの声が聞こえたので挨拶をしようとしたサーシャは、振り返って彼女の姿を見た瞬間、思わず挨拶よりも先にピオン達のドレス姿を見た感想を口にする。サーシャの言う通りピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼの四人は借り物だとは思えないくらいドレスを着こなしていて、その姿は目が肥えている上流階級の他の招待客達ですら見惚れてしまうくらいである。
「ふふっ♪ ありがとうございます、サーシャさん。それであそこにいる人達はマスターのご学友という事で招待したのです。その証拠に……ほら」
「あっ。アイリーンさん」
ピオンが指差した先をサーシャが見るとそこには、サイの軍学校時代の同級生達に混じってドレスに着替えたアイリーンの姿があった。昔は大貴族の娘であったのでドレスを着こなしているアイリーンであったがその表情は暗く、よく見ると彼女の周りにいる同級生達も表情を暗くしている。
「あの人達ってピオンさんが招待したのー?」
「ええ、そうです。あの人達にはマスターがお世話になったそうですから、そのお礼という事で招待させていただきました♪」
(あ……。多分ピオンさんが言うお礼って、お礼参りのことなんだろうなー)
サーシャの質問にピオンが笑顔で答えるが、この時のホムンクルスの少女は悪魔のような美しくも黒い笑顔を浮かべていた。その悪魔のような笑みを見てサーシャは、ピオンが自分の兄の同級生達を招待した真の意味を悟った。
そしてサーシャとピオン達がそんな会話をしているうちにパーティーが始まり、会場にパーティーの主役であるサイとクリスナーガ、ブリジッタが現れる。
礼服を身に纏ったサイの両隣には赤のドレスを着たクリスナーガと青のドレスを着たブリジッタが立っており、国の英雄に出世した上に一度に二人の婚約者を得た息子の姿にサイの両親が涙を流す。
「サイ……。アイツ、あんなに立派になって……!」
「ええ、ええ。本当に……」
両親の言葉を聞きながらサーシャもまるで別人のように立派な姿となった兄の姿を見ていた。
「どうです? 今のマスターはカッコいいでしょう?」
「……うん。そうだねー」
ピオンの言葉にサーシャは素直に頷く。そしてサイとクリスナーガ、ブリジッタの婚約パーティーが開始された。
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