尊敬と羨望の視線

「ふふっ♪ 大勢の人達がマスターとドランノーガの名を讃め称えている……。とても喜ばしい事ですね♪」


『ええ、全くです』


『そうですね。まるで自分の事のように嬉しいです』


『これだけ大勢の方々に呼ばれていると、それだけで感じてしまいそうです♪』


 ドランノーガの操縦席でピオンが言うと、操縦席の壁に映る小画面の中にいるヴィヴィアンとヒルデとローゼもそれに同意する。サイの従者であると同時に、ドランノーガの専用オペレーターである彼女達にとって、こうしてサイとドランノーガが大通りに集まった大勢の人達に讃め称えるのは、我が事のように嬉しい事であった。


「………」


 そして当の本人であるサイは自分達の名前を呼ぶ人達を驚いたような顔で見ていた。


「? マスター? どうかしました?」


「え、ああ……。ちょっとな……」


 様子がおかしい事に気づいたピオンに聞かれて、サイがそれに返事をしようとした時、外で親衛隊の隊長が声を張り上げるのが聞こえてきた。


『これより! 我がフランメ王国の新たな英雄! サイ・リューランが登場する!』


「……もう出番か。行ってくる」


「はい♪ 頑張ってください♪」


『マスター様のお披露目ですね。ご武運を』


『愛しのマスター。あまり緊張しないでくださいね』


『マスター様なら大丈夫ですよ。行ってらっしゃいませ』


 親衛隊の隊長も言葉を聞いてサイが操縦席から立ち上げると、ピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼが口々に言い、自分に仕えてくれる四人のホムンクルスの応援の言葉を背に受けて青年は操縦席の前方の壁を開放した。


『『『ーーーーーーーーーー!!』』』


 ドランノーガの下半身の竜の胸部からサイが姿を現わすと、大通りに集まった人々の熱気が一気に強まり歓声が上がった。それは多分自分の名前を呼んだ筈だと思うのだが、サイは今の大通りの人達の歓声がよく聞き取れず、まるで強い突風を全身で感じた気がした。


 大通りの人達は、全員サイを尊敬の目で見ていた。


 男も女も、子供も大人も老人も、その全てが「あれが新たな英雄か」と「自分もいつかあんな人になりたい」と言いながら尊敬の目をドランノーガから姿を見せたサイに向ける。そんな何百、何千といった尊敬と羨望の視線により、サイは自分の奥底にある「何か」が溶かして跡形もなくなくなっていくのを感じた。


「我らが英雄サイ・リューランは、世界各地を荒らし回った黒竜盗賊団を討伐し、フランメ王国より強奪したゴーレムトルーパー、ザウレードを取り返してくれた! 今日は新たな英雄の登場と同時に、奪われしザウレードがフランメ王国に帰国するめでたき日である! サイ・リューラン! ザウレードをここへ!」


 親衛隊の隊長が言うと、サイは予定通りにドランノーガから降りて、親衛隊の隊員達が用意してくれた大通りのスペースに向かい「倉庫」 の異能で収納していたザウレードを呼び出す。


『『『ーーーーー!』』』


 何もない空間より突然ザウレードが現れたのを見て、大通りに集まった人々は驚いた後に、自国の誇りであるゴーレムトルーパーの一体がこうして帰ってきた事実に喜びの声を上げる。


 ザウレードはアックア公国でドランノーガと戦った時に、ドランノーガによって両脚を切断された為、巨大な台車の上に乗せられていた。サイが「倉庫」の異能でザウレードを呼び出すと、次にドランノーガが空を飛んでザウレードの上を飛び越えてその前方に着地し、「超人化」の異能を持つ兵隊達がザウレードを乗せる台車と繋がっている数本の鎖をドランノーガの尻尾に取り付けた。


「ではこれより我らは新たな英雄サイ・リューランとドランノーガ。そしてザウレードを王宮へとお送りする! 行軍開始!」


 親衛隊の隊長が宣言すると、ドランノーガがザウレードの乗った台車を引きながら王宮へ移動を開始する。親衛隊はドランノーガとザウレードを取り囲む形の隊列となって進み、軍楽隊はドランノーガの前方とザウレードを乗せた台車の後方にて力強くも華やかな演奏をしながら進む。


 こうしてサイのお披露目を兼ねた祝勝パレードは開始され、大通りに集まった人々は歓声を上げながらサイ達が乗るドランノーガを見送り、またあるものはその後について行こうとした。


「マスター? どこか顔つきが変わった気がしますけど、どうかしましたか?」


「ん? そうか?」


 ドランノーガの操縦席の中でピオンが隣に座っているサイに話しかける。ホムンクルスの少女が言う通り、大通りの人達の歓声を聞きながらドランノーガの操縦をしているサイの顔からは強い自信が感じられていた。





【作者からのお知らせ】

 今日まで一日に五話のペースで投稿していたのですが、明日からは一日に一話のペースで投稿することにします。

 突然のことで申し訳ありません。

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