英雄は空からやって来る
パレードの開始時刻になると大通りに式典用の見栄えのする軍服を纏った親衛隊と軍楽隊が現れて、軍楽隊が管楽器と打楽器を鳴らしてパレードの開始を告げる音楽を大通りに響かせる。そして数分間の軍楽隊による演奏が終わった時に「それ」は現れた。
それは空を飛ぶ一つの影であった。
最初は空の彼方にあって鳥か雲の影と思われる程小さかった影は、大通りに近ずくにつれて大きくなっていき、大通りに集まった人々はその影の詳細な姿をその目にする。
夜の空を思わせる全身が紺色の巨体。
背中に一対の翼を生やし、後脚と尻尾から炎を吹き出して空を飛ぶ竜の下半身。
下半身の竜の背中、丁度左の翼と右の翼の付け根の中央より生えている上半身だけの騎士の像。
遥か上空から降りて来て大通りの人の目で視認できる程度の上空を飛ぶのは、惑星イクスの最強の兵器ゴーレムトルーパー。
しかし大通りに集まった人々は、大通りの上空を飛ぶ竜騎士の巨像をゴーレムトルーパーとすぐに信じる事が出来なかった。
「な、何だありゃ!? そ、空を飛んでいるゴーレムトルーパー、なのか?」
「お、おい? お前さんが見たゴーレムトルーパーって、空を飛んでいたのか?」
「わ、分かりません。私も戦いの途中からしか見ていなかったので……」
空を見上げながら目を限界まで見開いた恰幅のよい男と背の高い男の言葉に、眼鏡をかけた女性は彼らと同じく空を見上げながら呆然とした表情で答えた。
「た、た、た、隊長! 今! 今、ゴーレムトルーパーが空を……!」
宿屋の二階では一人の少女が窓から空を指差しながら混乱したように大声を上げ、先程までソファに座っていた女性も今は少女と同じ窓側に立って空を見ていた。
「ええ、分かっているわ。ちょっと落ち着きなさい」
少女のそう言う女性であったが、彼女も外見こそ平静をなんとか保てているものの内心は非常に動揺していた。少女は先程注意したにもかかわらず女性のことを「隊長」と呼んでいたが、そんな事を気にする余裕もない女性は空を飛んでゴーレムトルーパーを見上げて、やや引きつった笑みを浮かべる。
「報告で聞いた時はまさかと思ったけど、まさか本当に飛ぶなんてね……。成る程、本国が私を送るわけね……」
「え? え? ゴーレムトルーパーが空を飛んでいる? 何で?」
肌と髪が白い女性は、先程まで夢中になっていた手に持つ肉と野菜を挟んだパンを食べるのを忘れ、空を飛ぶゴーレムトルーパーを見上げて困惑した声を出す。
「どういうこと? 確か『こっち』って、技術レベルが衰退していて航空機の類なんて作れないはずでしょ? それなのに今はその全てが完全な陸戦兵器となったゴーレムトルーパーが、飛行を可能にする飛行ユニットを装備とかおかしくない? なんと言うか、色々と技術開発の順番をいくつか無視していない?」
空を見上げる白い肌と髪の女性の口から色々と不可解な言葉が漏れ出る。しかし周囲の人間は全員、空を飛ぶゴーレムトルーパーの姿を目で追うのに忙しく、誰一人として彼女の言葉を聞いていなかった。
人間の騎士の上半身と、竜や獣などの外見をした下半身をした鋼鉄の巨像。それは惑星イクス最強の兵器ゴーレムトルーパーの特徴であるのだが、同時にゴーレムトルーパーのもう一つの特徴には「ゴーレムトルーパーは地上を高速で駆ける兵器」というものがある。それは惑星イクスに生きる住民にとっての常識であり、その為大通りに集まった人々は空を飛ぶゴーレムトルーパーを、すぐにゴーレムトルーパーだと認識する事が出来なかったのだ。
しかし空を飛ぶゴーレムトルーパーが何回か大通りの上空を旋回した後、親衛隊が隊列を作って大通りに設置した空間に着陸すると、親衛隊の隊長が声を張り上げる。
「我が誇りあるフランメ王国の国民達よ、刮目せよ! これこそがフランメ王国の新たな英雄サイ・リューランが作り出せしゴーレムトルーパー、ドランノーガである! 今見たように古い戦場の常識を破壊し、大空より我らに勝利をもたらす鋼鉄の竜騎士である!」
親衛隊の隊長の言葉が終わると同時に軍楽隊が自分達が持つ楽器を鳴らして勇ましい音楽を奏で始める。今ままでただ呆然と空からやって来たゴーレムトルーパー、ドランノーガの姿を見ていた大通りに集まった人々の心が徐々に高揚していく。
「ドラン……ノーガ……!」
大通りに集まった人々の内の誰かがドランノーガの名前を口にする。するとそれをきっかけに大通りに集まった人々が次々にドランノーガの名を、そしてそれを作り出したサイの名を叫ぶ。
『『ドランノーガ! ドランノーガ ドランノーガ!』』
『『サイ・リューラン! サイ・リューラン!』』
『『フランメ王国の新しいゴーレムトルーパー! 天空より我らの勝利を約束する竜騎士よ!』』
こうして大通りはフランメ王国の新たな英雄とその乗機であるゴーレムトルーパーを讃め称える声で満たされた。
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