パレード開始直前

 王都の大通りは大勢の人々で賑わっていた。


 幸運にも新しいゴーレムトルーパーを手に入れて、世界中を荒らし回ってきた黒竜盗賊団を討伐したフランメ王国の新たな英雄サイ・リューラン。今日この大通りではサイのお披露目を兼ねた祝勝パレードが行われており、フランメ王国の人々はその新たな英雄、そして英雄が乗るゴーレムトルーパーを一目見ようと今日のパレードに参加していたが、パレードに参加しているのはフランメ王国の人間だけではなかった。




「それにしても随分賑やかだな」


「それはそうだろ。何しろ我が国の新たな英雄とそのゴーレムトルーパー、更には十年前に黒竜盗賊団に奪われたザウレードがいっぺんに見られるんだ。俺達もそうだけど、一目見たいって奴らは大勢いるさ」


 屋台から串焼きを何本も買った恰幅のよい男が周囲を見回しながら言うと、その横にいる背の高い男が答える。


「確かにそうだな。しかしその新しい英雄様のゴーレムトルーパーってどんな姿をしているんだろうな」


「さあな。もう少しすればパレードも始まるからその時に……」


「今までのゴーレムトルーパーとは違う、少し変わった姿をしていましたよ?」


 背の高い男が恰幅のよい男に返事をしようとした時、その話を聞いていた一人の眼鏡をかけた女性が横から二人の男に声をかけた。


「ん? 何だ? お嬢ちゃん、新しいゴーレムトルーパーを知っているのかい?」


 恰幅のよい男が今の言葉に興味を覚えて眼鏡をかけた女性に話しかけると、眼鏡をかけた女性は頷く。


「ええ。私、二ヶ月くらい前までアックア公国の大学に通っていたのですけど、その時にサイ・リューランのゴーレムトルーパーと黒竜盗賊団のゴーレムトルーパーが戦っているのを見たんですよ」


「へぇ、それは面白そうだ。なぁ、お嬢ちゃん? パレードが始まるまで、その話を詳しく聞かせてくれないか?」


「そうだな。飲み物くらいなら奢るがどうだ?」


「はい。構いませんよ」


 恰幅のよい男と背の高い男の誘いに眼鏡をかけた女性は頷き、そのまま三人は話をしながら飲み物を販売している屋台へと向かって行った。




 眼鏡をかけた女性が二人の男と一緒に屋台へと向かって行った頃、二階建ての宿屋の窓から一人のまだ少女と言える年頃の女性が大通りを観察していた。


「……目標の姿はまだ見えませんね」


「まだパレードが始まるまで少し時間がありますからね、離れた場所で待機しているのでしょう。パレードが始まったら姿を現わしますよ」


 大通りを観察している少女の言葉に、少女と同じ部屋のソファに座っている女性が答える。


「しかし隊長? ゴーレムトルーパーくらいの大きさなら、遠く離れていても影くらい見えるのでは……」


「お姉さん」


 少女の言葉を遮ってソファに座る女性が声を投げかける。


「え?」


「今の私達は噂の英雄を目当てに、他国から祝勝パレードを見学しに来た姉妹。私の事は『お姉さん』と呼ぶ約束でしょう?」


「……あっ!? す、すみませんでした! 隊ちょ……おねぇちゃん!」


 少女は女性の言葉にはっ、と気づいた表情になると慌てて頭を下げて謝り、ソファに座る女性は少女に「おねぇちゃん」と呼ばれて苦笑する。


「おねぇちゃん、ね……」


「あの……駄目でしたか?」


 不安そうな顔をする少女にソファに座る女性は首を横に振ってみせた。


「いいえ? 貴女の呼びやすいようにしていいわ。その代わり、もうさっきの呼び方をしては駄目よ?」


「分かりました! 隊ちょ……いえ! おねぇちゃん!」


 少女は敬礼みたいなポーズをとって元気よく返事をして、ソファに座る女性はそんな彼女を見てもう一度苦笑を浮かべるのだった。




「うわー。『こっち』のお祭りって凄いんだな……!」


 宿屋の二階の部屋で二人の女性が話をしていた頃、大通りの人だかりを見て肌も髪も異常なまでに白い女性が感嘆の声を上げる。


 その女性は肌と髪の白さに加えて容姿も整っており、周囲の人達から注目を集めていたが、彼女はそんな周囲の視線に気づいておらず珍しそうに周りを見回す。


「『あっち』でもお祭りはあったけど、周りの人達のエネルギーが全く違う。それに……」


 そこまで言って白い肌の女性は手に持っていた、少し前に近くの屋台で買った肉と野菜を挟んだパンを一口食べる。


「~~~! やっぱりこっちの食べ物って美味しい……! 頑張って選考試験に合格した甲斐があったよ」


 白い肌の女性は肉と野菜を挟んだパンの味に軽く感動すると、期待を込めた目を大通りに向けた。


「楽しみだな。早くお祭り始まらないかな」




 フランメ王国の新たな英雄サイ・リューランのお披露目を兼ねた黒竜盗賊団討伐の祝勝パレード。


 新たな英雄とそのゴーレムトルーパーを見る為に、フランメ王国の国民だけでなく様々な国の人間がパレードが行われる王都の大通りに集まっており、一体どのような人物と機体なのかと想像する。そしてそうしている内に時間が経過してやがてパレードの開始時刻となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る