卒業

 サイ達の活躍によって黒竜盗賊団の象徴であるザウレードが倒されて団長のエルヴァンが死んだ後、残された黒竜盗賊団のメンバーは間も無くアックア公国の軍隊に捕らえられた。


 黒竜盗賊団の壊滅後、捕まったメンバーのほとんどは処刑か牢獄に無期懲役とされた。だが生徒として士官学校に潜入していたエレナは、黒竜盗賊団の任務で以前から世界中で「魅力」の異能を使った潜入活動をしていて、それにより数多くの各国の機密を知っている事から他のメンバーとは対応が異なり、その後彼女がどうなったかは分からなかった。


 そして今回の潜入活動でエレナが自分の引き取り先としたキャンダル家は、彼女の「魅了」の異能で操られ、利用されていた事が分かったのでお咎めなしとなった。しかし士官学校や大学の関係者達は、例え「魅了」の異能で操られていたとはいえ、様々な情報を提供したりエレナの行動に協力する事により、結果的に黒竜盗賊団の活動を助けたということで厳重注意を受けた。特にアルベロを初めとする彼女のお気に入りであった取り巻きの五人は、いくつもの重大な情報(留学しているゴーレムトルーパーの操縦士の情報など)を漏らしたりした件で長期間の停学となった上に自宅謹慎となる。


 黒竜盗賊団の襲撃にその後の事後処理などもあって、士官学校と大学は少しの間休校になったりと慌ただしい日々が続いたが、一月が経った頃には通常通りの授業が再開された。


 そして黒竜盗賊団の襲撃から半年後。この日、士官学校の生徒達は卒業式を迎えた。


「やっぱりフランメ王国に帰るんだな、サイ?」


「まぁな。俺は元々フランメ王国の人間だし、留学が終わったら帰るしかないだろう?」


 学園の門の前で卒業証明書を片手に持ったビークポッドが言うと、同じく卒業証明書を片手に持ったサイが答える。


「……アックア公国はお前を家族一緒に迎え入れる準備があると聞いたが、この国は気に入らなかったか?」


 ビークポッドの言葉は事実であり、この半年間は様々な人間がサイをアックア公国に引き入れようと歓待に誘ったが、それでもサイはフランメ王国に戻る意思を変えなかった。


 サイはビークポッドの言葉に首を横に振りながら返事をする。


「そんな事はないって。アックア公国はいい国だと思う。だけどやっぱり俺はフランメ王国の人間で……住む国を変えるのはそう簡単な事じゃないと思うんだ。ビークポッドもそう思わないか?」


「……それはそうだな。しかしアレだな? もうお前の顔が見れないとなると少し寂しいな。それに何より、ピオンさん達の巨乳が今日で見納めだと思うと残念で仕方がない」


「ああ、それは俺も同感だ」


 しみじみと色々と残念なことをいうビークポッド……ではなく巨乳好きな馬鹿二号。サイ……ではなく巨乳好きな馬鹿一号もそれに同意し、彼の後ろにいたピオン達四人のホムンクルスの女性が巨乳好きな馬鹿一号の言葉に苦笑する。


「まぁ、それはとにかくあの方のことをよろしく頼むぞ」


「ああ、分かってい……」


「ドランノーガ様!」


 ピオン達の視線に気づき話題を変えたビークポッドの言葉にサイが答えようとした時、一人の女性の声がそれを遮った。


 声がしてきた方を見れば、アックア公国の大公の第三女ブリジッタ・アックアが荷物をまとめた姿でこちらに来ていた。


「もう! ドランノーガ様ってば、準備が整うまで待って下さいって言ったじゃないですか」


 そう言ってサイの腕に両腕を絡めて抱きついてくるブリジッタの顔は完全に恋をする乙女の顔で、腕から伝わってくる胸の感触は気持ちいいのだが、サイはそれに反応せず困惑した表情を浮かべており、いつもなら嫉妬の表情を浮かべているビークポッドもまた困惑した表情となっていた。


「……サイよ。何故ブリジッタ様はお前の事を『ドランノーガ様』と呼ぶんだ?」


「俺にも分からん。……それでブリジッタ? 君、本当に俺達と一緒にフランメ王国まで来るの?」


「当然です! もう私達は結婚を約束したのですからどこまでもついて行きます。もちろんお父様やビアンカ叔母様からも許可は頂いています。私はいつも貴方と一緒ですよ、ドランノーガ様」


 あくまでもサイのことをドランノーガと呼ぶブリジッタにビークポッドはなんと言ったらいいか分からなかったが、すぐに気を取り直してサイ達に声をかける。


「もう一度言うがブリジッタ様のことをよろしく頼むぞ。お前もピオンさん達も元気でな。……あと、たまには手紙くらい寄越せよ?」


「分かっている。それじゃあ、ビークポッドも元気でな」


 ビークポッドにそう返事をするとサイ達は、ブリジッタを連れてフランメ王国へと向かうのだった。

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