ドランノーガ対ザウレード(4)

「なるほど……。さっきピオンが言っていた、勝つのは難しいけど負けるのはあり得ないってこういうことか」


 サイは少し前にピオンが言っていた言葉に意味を理解する。


 確かに接近戦に向いた武装を持たないドランノーガではザウレードに勝つのは難しいだろう。しかしこちらにダメージを与える武装を持たないザウレードに負ける事はあり得ないだろう。ピオンが言っていたのはこういう意味であった。


「そういうことです。……では、そろそろ反撃といきましょうか」


 ピオンはそう言うと、サイからドランノーガの操縦権を借りてドランノーガを操作する。


 ピオンが狙うのは、自慢の大鎌の一本が折れて今だに呆然としているエルヴァンの乗るザウレード……ではなく、その少し離れた場所に落ちている先程折れたザウレードの大鎌であった。


「これが欲しかったんですよね♪」


 全て自分の狙い通り、といった笑みを浮かべるピオンが操作すると、ドランノーガの下半身の竜は折れたザウレードの大鎌を咥えて一気にそれを噛み砕いて吸収してしまう。そして次の瞬間、ドランノーガの巨体が光を放った。


「これは自己進化機能……っ!」


 自己進化機能が働いてドランノーガの巨体が光り始めたと同時に、サイの前方の壁に無数の文字が高速で現れては消えていく。それはかつて彼の脳に直接ドランノーガの操縦方法を刻み込んだ時と同じで、いまサイの頭の中には新しい武装の情報が送り込まれていた。


 光が収まった後のドランノーガは自己進化機能が発動する前と全く変わっていないように見えたが、一点だけ変わっているところがあった。


 それは翼。


 ドランノーガの下半身の竜の背部、上半身の騎士の腰の辺りに生えていた翼が、まるで片刃の剣のような外見にと変わっていたのだ。


「よし。完璧♪」


 ピオンは自己進化機能によって変化したドランノーガの翼を見て満足気に頷く。


 この新しいドランノーガの翼こそがピオンの狙い。


 攻撃範囲を読まれて当たる見込みが薄い砲撃を無理に行ったのも、わざと砲撃の隙を見せてドランノーガに攻撃させたのも全て、ドランノーガにザウレードの大鎌を吸収させて新たな武装を、今までなかった接近戦の武装を備えさせる為のピオンの策略であったのだ。


「マスター、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ」


 ピオンに聞かれてサイは一度に大量の情報を送られた事で少し痛みを感じる目と頭に手を当てながら答える。その目の前では、ようやく我にかえり自身の不利を悟ったザウレードが逃げ出す姿があったが、それを見逃すつもりは彼にはなかった。


「ピオン、ヴィヴィアン。新しい武装、ぶっつけ本番だけど使うぞ?」


「その言葉を待っていました、マスター♪」


『はい。いつでもどうぞ』


 サイの言葉にピオンとヴィヴィアンが了承する。


「ドランノーガ。【カロル・アーラ・グラディウス】」


『………!』


 サイの命令を受けてドランノーガが新たな武装の準備を始め、専用オペレーターであるピオンとヴィヴィアンがそれの補助をする。


「ウィングユニット、変形開始」


『………!』


 ピオンの言葉に従うかのようにドランノーガの左右の翼がそれぞれ前後に分かれ、前方の翼は横に伸びてその長さを増やし、後方の翼は後ろにと折りたたまれる。


「続いてプラズマ・ブレードフィールドを形成」


『………!』


 ドランノーガの左右それぞれ前後に分かれた前方の翼が熱を帯び、光を放つ超高熱の刃と化す。


『テールブースター、レッグブースター、噴出口の待機状態を維持。予測飛行軌道の計算完了』


『………!』


 ピオンに続いてヴィヴィアンが指示を出すと、尻尾と脚部にある噴出口がいつでも火を吹けるように小さな光を灯し、ドランノーガがいつでも走り出せるように身を低くする。


「『準備完了。いつでもいけます』」


 ピオンとヴィヴィアンの声が重なり、それを聞いたサイが獰猛な笑みを浮かべる。


「よくもドランノーガのイケメンフェイスを傷つけてくれたな……倍返しだ! ドランノーガ!」


『………!』


 サイの声に応えてドランノーガは脚部と尻尾の噴出口から火を噴き出してほぼ水平に飛び、光の刃となった翼で大気に光の線を引いた。


 新しい武装の準備をしている間に、ザウレードは全速力でかなりの距離まで逃げていたのだが、ドランノーガは一瞬で逃げる敵との距離を詰めて追いついた。


 ドランノーガはその重装甲故にザウレードのように速く走る事は出来ない。しかし速く翔ぶ事は出来るのだ。


 一瞬で逃げるザウレードに追いつき、そのまま追い越したドランノーガはすれ違いざまに光の刃となった翼でザウレードの下半身の竜の両脚を斬り裂き、両脚を失ったザウレードは勢いよく地面に激突すると動かなくなった。

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