ドランノーガ対ザウレード(3)
「……ん?」
ザウレードの操縦席でエルヴァンは、ドランノーガが下半身の竜の前腕部を再びこちらに向けてくるのを見て鼻を鳴らす。
「はっ! もう一度砲撃をしようってのか? 甘いんだよ!」
確かに遠距離の敵を攻撃出来るドランノーガの砲撃は確かに強力だが、その射線はすでに把握した。ザウレードのスピードと、ザウレードのナノマシンによって強化されたエルヴァンの反射神経をもってすれば回避するのは容易かった。
最初の砲撃では肝を冷やしたが、次に砲撃を仕掛けてくればその時に反撃を仕掛けて一気に勝負をつける未来を想像して、エルヴァンは勝利を確信したような笑みを浮かべる。
「さっきの一撃で俺を倒せなくて残念だったな。……きたか!」
ドランノーガの下半身の竜の前腕部、そこの先端に開いている穴に光が灯る。そして次の瞬間、前腕部から熱線が放たれるのだが、ザウレードは大きく跳躍することでそれを回避した。
「オラァ! くたばりな!」
砲撃を回避すると同時にドランノーガの上空へと跳躍したザウレードは、右の前腕部に備わった大鎌を振り下ろした。
狙いはドランノーガの下半身の竜の頭部。
ゴーレムトルーパーはその機体によって操縦士が乗る操縦席の位置が異なるのだが、下半身の動物の頭部はその操縦席になりやすく、またゴーレムトルーパーのメインカメラの役割をもっていた。エルヴァンはそこを攻撃することであわよくば一撃で勝負を決め、例え操縦席でなくともメインカメラを破壊することでサイ達の視界を奪い、戦いを有利にしようと考えたのだった。
ザウレードの前腕部に備わった二本の大鎌は、ナノ単位の鋭さを誇り、ゴーレムトルーパーの自己修復機能でその鋭さを保ち続ける死神の刃。
これまでにも何度か敵のゴーレムトルーパーと戦い、その都度相手の装甲を容易く斬り裂いてきた必殺の刃はドランノーガの下半身の竜の頭部に勢いよく振り下ろされて……。
バキン!
と、音を立てて根元から折れた。
「…………………………はっ?」
エルヴァンは折れたザウレードの大鎌を目を限界まで見開いて見て信じられないといった表情になった。
「…………………………え?」
エルヴァンが信じられないといった表情を表情をしていた時、ドランノーガの操縦席にいるサイもまた折れたザウレードの大鎌を見て信じられないといった表情を浮かべていた。
「マスター、どうかしましたか? 変な顔をして?」
「え? いや、だって、あれ……」
隣に座っているピオンに話しかけられたサイは、何を言ったらいいか分からないといった顔で目の前にある折れたザウレードの大鎌を指差す。
ピオンに言われて二度目の砲撃を放ったサイは、ザウレードに砲撃を回避されると同時に反撃された時、ドランノーガが大ダメージを受けるのを覚悟した。しかしザウレードの大鎌をまともに受けたドランノーガの竜の頭部はうっすらと斬られた痕があるだけでまったくダメージはなく、逆にザウレードの方が攻撃をした大鎌が折れるという大ダメージを負っていた。
その事実にサイが驚いているとピオンが当然とばかりの表情で口を開いた。
「当然ですよ。あんな超発熱機能どころか超振動機能すらない、鋭さを維持するだけの自己修復機能しかないブレードなんてドランノーガの装甲に通用するはずがないじゃないですか。……やっぱり現存しているゴーレムトルーパーは自己進化機能のせいで大きく弱体化しているみたいですね」
嘆かわしい、と言いたげな表情で目の前のザウレードを見るピオンだったが、サイはその時の彼女の言葉に気になる部分があった。
「ちょっと待て、ピオン? お前、今何て言った? ゴーレムトルーパーが自己進化機能のせいで弱くなっている?」
サイの質問にピオンは一つ頷いて答える。
「はい。正確には『現代の戦いに適応する姿』に進化した訳ですが、前文明のモンスターとの戦いの記録と比べると明らかに弱体化しています」
「……どういうことだ?」
「つまりですね。ゴーレムトルーパーの自己進化機能は対象を吸収して一気に進化するのと、操縦士の意思を感じ取って少しずつ進化する二種類があります。そしてこの数百年の間、前文明の頃のような強力なモンスターはおらず、ゴーレムトルーパー同士の戦いも相手を完全に破壊するのではなく戦闘不能すれば決着、という前文明の頃と比べるとレベルが低い戦いが続いていて、現存するゴーレムトルーパーはそんな戦いに適応する形で進化したのです」
前文明が滅んだ事によって惑星イクスの人類の技術力や戦力は大きく下がったが、同時に人類の生活圏から前文明の人類が戦っていたような強力なモンスターは姿を消した。
結果、現代のゴーレムトルーパーの戦いは、対抗する力のない下級のモンスターや一般の兵士を蹴散らし、同じゴーレムトルーパー同士の戦闘でも完全に破壊するされるまでしたら国の戦力が大きく下がる危険があるので、適度にダメージを与えて戦闘不能にしたら決着という、ピオンの言う通り前文明の頃と明らかにレベルの低いものとなった。そして現存するゴーレムトルーパーは長い時間をかけてそんな現代の戦いに適した姿へと進化していく。
モンスターを始めとして空を飛ぶ敵がおらず戦場はほとんど陸地である為、飛行機能がなくなって陸戦特化型に。
遠距離からの攻撃と言えば効果の全く無い銃や大砲だけな上に素早く戦場に辿り着く必要がある為、装甲は軽装甲に。
現代では遠距離からの砲撃戦をする機会が皆無となり操縦士自身や周囲の兵士の戦意を鼓舞する為、遠距離攻撃用の武装がなくなり近接戦用の武装ばかりに。
鋼鉄の巨体でありながら風のように動き、大地を豪快に踏み鳴らし敵を威圧しながら接近し、鋼の刃と牙で相手を蹂躙する動像の騎兵。ゴーレムトルーパー。
そう言えば聞こえは良いが、逆に言えばそれは高速で動く為に装甲を薄くして、地上戦に特化する為に制空権を放棄し、接近戦を重視するあまり遠距離攻撃の手段を失ったと言う事。
そんな現代のゴーレムトルーパー同士の戦いに慣れきった、装甲の薄い相手しか斬った事しかないザウレードの刃がドランノーガの重装甲に通じる道理なんて最初から無かったのだ。
「ようするに『進化する』とは『強くなる』って意味じゃないのですよ」
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