ドランノーガ対ザウレード(2)

 ドランノーガとザウレードが戦っていた時、ヒルデとローゼとブリジッタの三人は大学の校舎の中、一階の教室に避難していた。校舎の中に避難したのは、戦いに巻き込まれない為であると同時に、ドランノーガの登場で逃げ出した黒竜盗賊団の誘拐犯達から身を隠すためでもあった。


 しかしドランノーガとザウレードの戦いが始まると、ブリジッタは教室の窓から身を乗り出して二体のゴーレムトルーパーの戦いを見ていた。


「あれがゴーレムトルーパー同士の戦い……」


「ブリジッタ様。そこは危険です」


「早くこちらへきてください」


 ヒルデとローゼが呼ぶがブリジッタはそこから動こうとせず、二体のゴーレムトルーパーから視線を向けたままヒルデとローゼに話しかける。


「あの、翼があるゴーレムトルーパーがサイさんなのですか?」


「? ええ、そうですが」


「はい。あのゴーレムトルーパーこそがマスター様の半身、ドランノーガです」


「ドランノーガ……」


 ヒルデとローゼがブリジッタの質問に答える。この時ブリジッタは二体のゴーレムトルーパーからドランノーガだけを見ていた。


 アックア公国大公の娘であるブリジッタは、これまでに自国のだけでなく他国のゴーレムトルーパーを見てきたが、ドランノーガはそのどれもとは大きく違う機体であった。


 空を飛ぶための翼も、接近戦にまったく向いていないように見える武装も、高速で動く事を放棄したような重装甲も、全て今までブリジッタが見てきたゴーレムトルーパーと異なっている。それ故に新鮮に感じた彼女はすぐに、前文明の研究者としての経験からドランノーガの姿にゴーレムオーブ、前文明のシステムが導き出した機能美を感じ取る。


 気づけばブリジッタは頬を赤く染めて、まるで恋をする乙女みたいな表情でドランノーガを見上げていた。


「……素晴らしいです。ドランノーガ……様」


「「はい?」」


 恋する乙女の表情となったブリジッタの言葉にヒルデとローゼは思わず呆けた声を出した。




「何なんだ? あの機体は?」


 ザウレードの操縦席の中で黒竜盗賊団の団長エルヴァンは目の前のゴーレムトルーパー、ドランノーガを見ながら呟いた。


 先程相手の尻尾による攻撃を躱したのはいいが、その時にザウレードの人工頭脳がもしあの尻尾による攻撃を受けた場合のダメージを予測し、それを受けたら一撃でザウレードが戦闘不能になるという警告文を見た時、エルヴァンは頬に一筋の冷や汗が流れたのを感じた。


「見るからにトロそうな重装甲だが、当たれば一撃でこちらをオシャカにしちまう馬鹿力……。それにあの騎士と竜の両腕……」


 慎重にドランノーガの姿を観察しているエルヴァンが見ているのは、ドランノーガの上半身の騎士の両腕と下半身の竜の前腕部。


 拳を固めた手甲のような騎士の両腕と棍棒のような竜の前腕部を見ていると、エルヴァンの危険を知らせる本能が警鐘を鳴らしてくる。それに何より彼には騎士の両腕と竜の前腕部が「ある兵器」に見えて仕方がなかった。


「あの両腕……前に穴が空いているよな? あれってまさか……!?」


 エルヴァンが一人呟いているとドランノーガの下半身の竜が前腕部を持ち上げて、その先端の穴をエルヴァンが乗るザウレードへと向ける。そしてドランノーガの竜の前腕部の穴が光ったと思った時、エルヴァンは考えるより先にザウレードを横に飛び退かせた。すると次の瞬間、ドランノーガの竜の前腕部の穴から熱線が放たれて先程までザウレードがいた空間を貫いた。


 本来ゴーレムトルーパーは飛び道具の類いの武装は持たない。そんなゴーレムトルーパーの常識を無視したドランノーガの一撃をエルヴァンが避ける事が出来たのは、奇跡としか言いようがなかった。


「クソッ! やっぱり大砲かよ! 遠距離攻撃もありとか本当に何なんだよ、あのゴーレムトルーパーは!?」




「避けられた!?」


「ふむ……。初見で『カロル・ブラキウム』を避けるだなんて敵も中々やりますね」


 ドランノーガの操縦席の中では自分達の攻撃を避けられたサイが驚きと悔しさが混ざった声をあげ、その隣でピオンが感心したように呟く。


「感心している場合じゃないだろ。これはいよいよ本当にマズイぞ」


 ピオンの呟きを聞いていたサイが隣に座るホムンクルスの少女に言う。


 敵のゴーレムトルーパー、ザウレードが距離を開けた今が好機だと思い、ドランノーガの下半身の竜の前腕部に備わった熱線砲「カロル・ブラキウム」を放ったのだが、ザウレードは初見でありながらそれを回避してみせた。こうなるとこの距離でザウレードに攻撃を当てるのは恐らく無理であろう。


 しかしピオンの表情には諦めの色も焦りの色もなかった。


「マスター。もう一度『カロル・ブラキウム』を発射してください」


「何を言っているんだ? 今のを見ただろ? 例え撃っても避けられてそれで終わり……」


「それでもです」


 ピオンはサイの言葉を遮ってもう一度カロル・ブラキウムの発射を自分の主人である青年に願う。


「私の読み通りならそれでこの戦い、一気に私達の有利になるはずです」

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