ドランノーガ対ザウレード(1)

「マスター! 来ます!」


「分かっている! ドランノーガ!」


 こちらに突撃してくるザウレードを見てピオンが言うと、サイはそれに返事をしてからドランノーガの名前を呼んで操作する。


『………!』


 サイの指示を受けたドランノーガはその場で右方向に回転。更に回転と同時に脚部と尻尾の噴出口から炎を噴き出す事によって回転の速度を瞬時に加速させ、勢いのついた尻尾をザウレードの機体に叩き込もうとする。


 ドランノーガの尻尾による攻撃は、かつて不意打ちとはいえビアンカが乗るゴーレムトルーパーを一撃で戦闘不能にする威力を持つ。まともに当たればザウレードもあの時のように一撃で戦闘不能となるだろう。だが……。


『………!』


 ドランノーガに向かって突撃をしようとしていたザウレードは、尻尾の一撃が当たる直前に足を止め、それと同時に後方へと跳躍する事で攻撃を回避した。


「素早いですね」


「ああ、最近忘れがちだったけど、あれがゴーレムトルーパーの戦い方だ」


 こちらの攻撃を回避したザウレードを見ながらピオンがそう言うと、サイもまた目の前の敵から目を離さずに答える。


 ゴーレムトルーパーとは高速で地上を駆ける兵器。


 鋼鉄の巨体でありながら風のように動き、大地を豪快に踏み鳴らし敵を威圧しながら接近し、鋼の刃と牙で相手を蹂躙する動像の騎兵。


 それが現在のゴーレムトルーパーが共有する戦い方であり戦う姿で、重装甲で機体を包み空を飛んで遠距離から砲撃をするドランノーガが異端であるのだ。その事をドランノーガに乗り慣れてきたサイは、ザウレードと戦う事で思い出した。


「しかしマズイな……。この戦い、俺達が不利だぞ」


 サイが苦い顔となって呟く。


 ドランノーガは遠距離からの砲撃戦に特化した機体であり近接戦は不得手で、格闘手段と言えば先程の尻尾による攻撃、下半身の竜の前腕部による打撃くらいしかなかった。


 ヒルデにローゼ、ブリジッタの三人を黒竜盗賊団の誘拐犯達から守る為とはいえ、ザウレードも向かって来ていたこの大学の中庭に来てしまった事により、ドランノーガは「距離」という強みを失ってしまったのだ。今のこの距離は接近戦に秀でたザウレードの距離であった。


「そうでしょうか?」


 しかしサイの隣に座るピオンは、自分の主人の言葉にそう返した。


「ピオン?」


「私にはドランノーガが不利になったようには思えません。……ヴィヴィアン、どうですか?」


 ピオンはサイにそう言うと前方の壁に映っている小画面に目を向ける。すると小画面の中にいる彼女と同じ主人に仕えるホムンクルスの少女が口を開いた。


『まだ解析中ではっきりと言えないけど、多分ピオンが考えている通りだと思うよ』


「……そうですか♪」


 ヴィヴィアンの言葉に自分の考えが当たっていると言われたピオンは口角を上げた。


 恐らく「通心」の力で事前に意見を交換していたのであろうが、サイにはピオンとヴィヴィアンの会話が何を意味しているのか分からなかった。そんな彼にピオンは余裕のある笑みを浮かべてみせた。


「安心してください、マスター。この戦い、勝つのはちょっと難しいかもしれませんけど、負ける事はまずあり得ません」


(勝つのは難しいけど、負ける事はあり得ない? どう言う事だ)


 ピオンの助言は今まで何度もサイを助けてくれた。だから彼は彼女の言葉を疑うつもりはないが、この自分達がかなり不利な状態で何故そのような結論が出るのか分からなかった。


 サイは横目でピオンを見るが、彼女は前方にいる敵のゴーレムトルーパー、ザウレードを見ていた。


 ザウレードは、ドランノーガが今までのゴーレムトルーパーとはどこか違うと感じ取ったのか、一旦距離を取って慎重にこちらの様子を見ている。ピオンはそんな敵のゴーレムトルーパーの前腕部、蟷螂のような大鎌を見て呟いた。


「アレ……結構良さそうですね?」

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