黒竜盗賊団団長エルヴァン
黒竜盗賊団の団長エルヴァンは、元々はフランメ王国の軍人であった。
フランメ王国の寒村で生まれ、幼少の頃に親を亡くして極貧の少年時代を送ったエルヴァンは、十五の頃にせめて人並みの生活をしたいと考えて軍に志願した。しかし軍人となったからといってすぐに貧しさから逃げられるわけはなく、更にエルヴァンは貧しい生まれというだけで軍の同僚や上司から蔑まれる事となる。
エルヴァンは周囲から蔑んだ目で見られる悔しさをバネにして実力をつけていくのだが、同時に彼は裕福な人間、特に貴族に対して強い不満を募らせていき、それはやがて「不満」から「憎悪」にと変わっていく。そしてその憎悪は、実力をつけたことで順調に出世して当初の目的の「人並みの生活」を手に入れても消えなかった。
そんなエルヴァンに人生の転機が訪れたのは今から十年前。とある領地をめぐっての隣国との戦いでの事である。
軍人の役目は自軍のゴーレムトルーパーが来るまで戦線を維持する事。当時槍兵科の軍人であったエルヴァンは、槍兵部隊の指揮官として戦線を維持する為に戦っていたのだが、自軍のゴーレムトルーパーより敵国のゴーレムトルーパーが先に到着してしまい撤退を余儀なくされる。
ゴーレムトルーパーの相手をできるのはゴーレムトルーパーだけ。
ただの軍人であるエルヴァン達にゴーレムトルーパーの足止めなど不可能であり、敵国のゴーレムトルーパーが到着してすぐに撤退したエルヴァンの判断は決して間違っていないというか、この惑星イクスでは通常の判断である。しかし遅れて到着した自国のゴーレムトルーパーの操縦士はそうは思っていなかった。
自国のゴーレムトルーパーの操縦士は、裕福な貴族の家系に生まれ、階級を重視して、貴族ではない平民など人ではないように扱う、エルヴァンが最も嫌う典型的な貴族であった。
戦場に辿り着いた自国のゴーレムトルーパーの操縦士は、自分がついた時にはすでに領地が敵国に占領されている事に激怒し、エルヴァン達戦線を維持していた軍人達を非難した。領地を占領されたのはお前達が敵のゴーレムトルーパーの足止めをしなかったからだと。
その時戦場にいた軍人達はエルヴァンを初めとしてほとんどが平民の出身で、その事から自国のゴーレムトルーパーの操縦士は「やはり平民など当てにならぬ」とか「下賎な血の者は母国を守る意志も力もない」などの内容の言葉を言った後で、一つの作戦の実行を宣言した。それは戦場にいる全ての軍人達で敵国に向かって総攻撃を行い、その隙をついて自国のゴーレムトルーパーが敵国のゴーレムトルーパーに戦いを仕掛けるという、無謀極まりない一般の軍人の犠牲を前提とした作戦であった。
一般の軍人達にゴーレムトルーパーの足止めをしろという無茶どころか「死んでこい」と言わんばかりの事を言い、今度は国の命令というよりも自らのプライドの為に軍人達の命を犠牲にする無謀な作戦を実行しようとする自国のゴーレムトルーパーの操縦士、いや、貴族にエルヴァンはついに長年溜め込んできた怒りを爆発させた。
作戦が実行される前夜、エルヴァンは長年自分の下についてきてくれた数名の信頼できる部下達と共に、専用のテントで眠っていた自国のゴーレムトルーパーの操縦士を暗殺した。眠っていたところを無数の刃と銃弾で貫かれてあっさりと死んでしまった操縦士の姿にエルヴァンは思わず笑い、その時から彼の中で暗い悦びが芽生えたのであった。
つまりは貴族を初めとする裕福な者をころし、その財を奪うという悦びを。
操縦士を暗殺したエルヴァンは、自国のゴーレムトルーパーを奪って新たな操縦士となり、共に暗殺を行なった数名の部下達と軍を脱走。脱走後は自分と数名の部下達で盗賊団を結成する。
この時に奪ったゴーレムトルーパーこそがザウレードであり、ザウレードの姿からとって結成された盗賊団は「黒竜」盗賊団と名付けられる。エルヴァンの軍人時代に培われた慎重に作戦を立ててから行動するやり方とザウレードという破格の力により、黒竜盗賊団は一度も捕まる事なく仲間を増やしながら世界各地を暴れ回り今日に至る。
そして黒竜盗賊団の団長エルヴァンは今、ザウレードの操縦席の中で苛立った表情で愚痴を言っていた。
「ちっ! 何なんだよ、あのゴーレムトルーパーは? 空を飛んで来るなんて反則だろ。お陰で予定が狂ったじゃねぇかよ」
エルヴァンが見ているのは先程空から降りてきた常識外のゴーレムトルーパー、ドランノーガ。
士官学校に潜り込ませたエレナからの報告で、ゴーレムトルーパーの操縦士の留学生がいる事は知っていたのだが、そのゴーレムトルーパーが空を飛ぶ事が出来るだなんて報告にはなかったしエルヴァンも予想外であった。
「だがまあいい。ここで厄介なのはお前だけだ。さっさとブッタ斬ってお姫様を拐わせてもらうぜ」
エルヴァンはそう言うとザウレードを操作し、操縦士からの指示を受けた黒いゴーレムトルーパーは両腕部の大鎌を展開してドランノーガへと突撃した。
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