夜空からの救援

「はっ! 部屋から抜け出された時はちと焦ったが、俺達からは逃げられねぇぜ?」


 大学の中庭でヒルデ、ローゼ、ブリジッタの三人を待ち伏せしていた黒竜盗賊団のメンバーの一人である男が得意気に言う。


 中庭で待ち伏せをしていた黒竜盗賊団のメンバーは十数人。そしてそうしているうちに校舎でヒルデ達を追っていた十人はいるメンバーも中庭に現れて、ヒルデ達三人は二十人以上の黒竜盗賊団のメンバーに囲まれてしまった。


「さあ、もう逃げ場はないぜ」


 先程ヒルデ達に声をかけた黒竜盗賊団の男は、自分の仲間達が追いついてヒルデ達を完全に取り囲んだのを確認すると、次にヒルデとローゼとブリジッタの姿を見る。


「それにしても話通りのいい女だな。ついでに他の二人も滅多に……いや、生まれて初めて見るってくらいの上玉だ」


 黒竜盗賊団の男はまずブリジッタを見て、次にヒルデとローゼを見ながらいやらしい笑みを浮かべる。その笑みだけでこの黒竜盗賊団の男が何を考えているのかは丸分かりであり、他の黒竜盗賊団のメンバーが男に話しかける。


「おい。あの二人、報告にあったホムンクルスだぜ?」


 黒竜盗賊団のスパイであるエレナによってヒルデ達の情報は黒竜盗賊団のメンバー全員に知れ渡っていた。


 ホムンクルスは人間を遥かに超えた、「超人化」の異能の使い手に匹敵する程の身体能力を持つ。男に話しかけた黒竜盗賊団のメンバーは、その事を忘れるなと忠告をしたのだが男は特に気にした様子もなく返事をする。


「分かっているって。だけどこっちにだって『超人化』の異能が使える奴が大勢いるんだぜ? 上手くすればブリジッタは流石に手を出せねぇが、あのホムンクルス二人を俺達の好きにできるかもしれないぜ?」


 男の言葉に、忠告をした黒竜盗賊団のメンバーだけでなく、ヒルデ達を取り囲むメンバー全てが情欲の光を宿した目をヒルデ達三人に向ける。ヒルデとローゼは、ブリジッタを周囲からの情欲にまみれた視線から庇うように彼女の前と後ろに立ち、それを見た男が余裕のある表情を見せながら二人のホムンクルスの女性に声をかける。


「無駄な抵抗はやめときな。いくらお前達がホムンクルスでもこの数じゃ勝てないだろうし、お前のご主人様とやらはここから遠く離れた場所にいて助けは来ない。大人しく降参したら少しくらい優しくシテやってもいいぜ?」


 今の状況は最悪で、普通に考えれば今男が言ったように降参するしか選択肢はないだろう。しかしブリジッタの前に立つローゼの顔には絶望も焦りもなく、逆に余裕が感じられた。


「あら、お優しいお言葉ありがとうございます。ですがすでに私達はマスター様に救援を頼んでおります。そしてマスター様はもうすぐ来てくださると『おっしゃっていましたよ』」


「え? ローゼ? ……あっ! もしかして」


「……」


 ローゼの言葉にブリジッタは首をかしげるが、すぐに何かに気づいて後ろにいるヒルデに振り返り、ヒルデは彼女の視線に無言で頷いて答える。


「はははっ! 嘘をつくんだったらもっとマシな嘘をつくんだな。この学園は俺達の仲間が包囲していて救援を呼ぶ伝令なんて見逃さねぇよ。万が一、その伝令が包囲を抜け出せたとしても、救援なんてすぐに呼べる訳が……」


 ローゼの言葉をその場しのぎの嘘だと決めつけた黒竜盗賊団の男は笑いながら言うが、その途中で夜空から大音量の爆音が聞こえてきた。


「……!? な、何だこの音……は……!」


 黒竜盗賊団の男は突然の爆音に耳を押さえながら夜空を見上げ、その場で絶句した。その男だけでなく、他の黒竜盗賊団のメンバー達も、そしてブリジッタも夜空を見上げて驚愕の表情を浮かべていた。


 夜空を見上げるとそこには、翼の生えた竜に乗った騎士の外見をした鋼鉄の巨像がこちらへと向かって飛んでくる姿が見えた。


「ご、ゴーレムトルーパー? いや、でも飛んで……? 何ですか、あれは?」


 ブリジッタがこちらへと飛んできている竜騎士の巨像、ゴーレムトルーパーを見ながら目を見開いて呟く。その呟きはヒルデとローゼを除く、その場にいる全員の気持ちであった。


 夜空を飛んで大学の中庭へと向かうゴーレムトルーパーの名はドランノーガ。ある一人の青年の血を受けたゴーレムオーブより作り出された、この世で唯一の空を飛ぶゴーレムトルーパー。


 そしてドランノーガの操縦席で、ヒルデとローゼとブリジッタの無事な姿を確認したサイは、安堵の表情となって呟いた。


「よかった。どうやら間に合ったようだな」

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