戦闘終了
「ちぃっ!」
自分と相手との実力差を悟りつつも、それでも最後まで足掻こうと剣を振るう黒竜盗賊団のメンバーであったが、やはりビークポッドの大剣に防がれてしまう。
「……もういいか?」
「何?」
「そろそろ俺の方から反撃をしてもいいかと聞いているんだ」
「っ!」
そう言われて黒竜盗賊団のメンバーは、ビークポッドが自分の攻撃を防いでいるだけで一度も反撃をしていないことに気づいた。その事実に呆然としている黒竜盗賊団のメンバーの前で、ビークポッドは大剣を頭上に掲げて上段の構えをとった。
「それと……お前、さっき俺の事を二度もハゲと言ってくれたがなぁ……!」
「ひいぃ!?」
上段の構えをとったビークポッドの殺気が膨れ上がったのを感じて、黒竜盗賊団のメンバーは悲鳴をあげて自分の持つ剣を盾にしようとする。
「余計な……お世話なんだよぉぉっ!」
「ぎゃっ!」
まさに怒髪天をつく(髪はないが)といった勢いの怒声と共に大剣を振り下ろすビークポッド。ビークポッドの大剣は、黒竜盗賊団のメンバーの剣を容易く叩き斬り、そのまま黒竜盗賊団のメンバーの頭頂部から股先まで斬り裂いた。
黒竜盗賊団のメンバーの左右に両断された体の断面から大量の血と臓物が漏れ出る。その返り血を浴びるビークポッドの姿は伝説の狂戦士のようで、今まで戦っていた教官達や他の黒竜盗賊団のメンバー達も戦うのを忘れて彼に視線を向ける。
「ちくしょうが……! 髪があるのがそんなに偉いのかよ? どうせ俺は若ハゲだよ。スキンヘッド以外選択肢はねぇよ。だがそれが悪いのかよ? 髪セレブが……!」
大剣を振り下ろした体勢のまま、頭の表面にいくつもの血管を浮かせて憎々しげに吐き捨てるように言うビークポッドの表情はまさに鬼。大剣の一振りで相手の体を容易く両断し、全身から殺気と怒気を噴出させる彼の姿は、エレナや残っている黒竜盗賊団のメンバー達から戦意を無くさせるくらいに恐ろしかった。
その後、戦闘は驚くくらいあっさりと終了した。行動が直前になって察知されたかのように士官学校の教官達が駆けつけてきたのに加え、先程のビークポッドの戦いぶりに戦意を失った黒竜盗賊団のメンバー達は早々と降伏していったのだ。
降伏した黒竜盗賊団のメンバー達は教官達によって捕縛され、人質から解放されたアルベロ達五人は、黒竜盗賊団のメンバーと一緒に捕縛されているエレナを見て「まさか彼女が……」とか「信じていたのに……」とか悲痛の表情で言うのだが、それを聞いてもビークポッドは特に同情することはなかった。
確かにアルベロ達はエレナの「魅了」の異能によって操られた被害者と言えるだろう。しかしそれでも彼女の気を引くためだけに、彼らを心配して忠告してくれた婚約者や友人を蔑ろにした事実は消えはしないのだ。
「まったく……。騙されたとはいえ、自分達の婚約者を裏切っておいて被害者ぶるとは同情の余地もないな。……そう思わないか? なぁ?」
「うるさいわよ」
アルベロ達を呆れた目で見ていたビークポッドは視線を下にと向ける。そこには縄で縛られて両腕を封じられたエレナがふて腐れた顔で地面に座っていた。
エレナはしばらくの間、無言で怒りの視線をビークポッドに向けていたのだが、やがて口元に相手を皮肉る笑みを浮かべる。
「ふん。いい気になっていられるのも今のうちよ? 私達は所詮……」
「お前達は陽動部隊。士官学校の教官や大学の警備兵の目を引き付けて、あわよくばアルベロ達を拐おうとした。本命は大学に向かっている別働隊で、狙いは大公陛下のご息女のブリジッタ様、だろう?」
「……!?」
捕まってしまった為、半ば自棄になっていたエレナはビークポッドを驚かせてやろうと自分の知る情報を言おうとしたのだが、先に自分達しか知らないはずの情報を言われて逆に驚かされてしまう。
「な、何でそれを……?」
「俺達にお前達の事を教えてくれた奴が教えてくれたんだよ」
驚愕の表情となって見上げてくるエレナにビークポッドは何でもないように答えると、大学がある方向の夜空を浮かべる。
夜空に輝く無数の星々。その中の一つが、自分達にエレナ達黒竜盗賊団の情報を教えてくれた自分の友人が乗る鋼鉄の竜騎士だとビークポッドは思うと、エレナに視線を向けることなく話しかける。
「悪いがエレナよ。黒竜盗賊団の企みは失敗に終わる。何しろアックア公国で最も頼りになる戦力がブリジッタ様をお守りに向かったのだからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます