平原までの道中

 早いものでサイ達がアックア公国の士官学校に留学してから半年の時が経ち、今アックア公国の士官学校では全兵科合同の軍事演習が行われていた。


 この軍事演習で生徒達は敵対する二つの勢力という設定で二つに分かれて模擬戦を行い、それぞれ自分達の役割をどれだけ適確に行うことができるかを競い合う。


 そして軍事演習の様子は教官達が観察していて、特に優秀な生徒は士官学校だけでなく軍の方にも報告されて、卒業後の軍での生活に大きな影響が出る。その為、今軍事演習を行う平原に向かっている学生達のほとんどは緊張した表情をしているのだが、中には全く緊張していない者達もいた。


「マスター、軍事演習頑張ってくださいね♪」


「私もピオンもマスター殿のお手伝いをさせていただきます」


 軍事演習を行う平原に向かう道中でピオンがサイの右腕に、ヴィヴィアンが左腕に抱きつきながら自分達の主人である青年に話しかける。そしてサイはというと、いつもだったら両腕から伝わってくる二人の巨乳の感触に感動しているのだが、今は引きつった顔をしていた。


「えっと……? ピオン? ヴィヴィアン? 気持ちは嬉しいし、腕も気持ちいいんだけど今だけは離れてほしいな……なんて……」


 そう言ってサイが周囲を見回すと、他の学生達が鋭い視線をサイ達に向けており、中には明らかに舌打ちする者達もいた。彼らの視線はこう語っている。つまり「こんな時までもイチャついているんじゃねぇよ、このハーレム野郎」と。


 だが学生達がサイにその様な視線を向けるのも仕方がないと言える。


 何しろ学生達は軍事演習で使うための重たい荷物を背負って移動しているのに対して、サイは「倉庫」の異能で荷物を異空間に収納して手ぶら。しかも両隣にはピオンにヴィヴィアンという絶世の美少女がそれぞれ右腕と左腕に抱きついて密着している両手に花状態。


 何と言うか、見ていると真面目に軍事演習に取り組もうとしているのが馬鹿らしくなってくる姿である。


 周囲の学生達からの視線にさらされて、まるで針のむしろの中にいる気分のサイの言葉に、ピオンとヴィヴィアンが首を傾げる。


「マスター、どうしたのですか? いきなりそんなマスターらしくない事を言い出して? もしかして緊張しているのですか? でしたら……えい♪」


「はい」


 むにゅん♪ むにゅん♪


「おおう!?」


『……………!』


 ピオンとヴィヴィアンの二人は自分達の主人の両腕により強く抱きつき乳房を押し付けて、サイは両腕からより明確に伝わってくる二人の巨乳の柔らかさに体を震わせる。そしてそれと同時に周囲の学生達が一瞬驚きで目を見開いた後、すぐにより強い視線をサイ達に向ける。


「どうですか、マスター。緊張はほぐれましたか?」


「私達の胸がマスター殿のお役に立ったのでしたら私も嬉しいです」


「うん♪ ピオンもヴィヴィアンもありがとう。お陰で緊張とか不安とか色々吹き飛んだよ。それじゃあ行こうか」


「「はい!」」


 ピオンとヴィヴィアンの胸の感触に、サイは先程までの引きつった顔から満面の笑みになると足取り軽く先を進み、二人のホムンクルスの少女も自分達の主人が元気になった事に喜び、彼の腕に密着した状態でついて行く。


 もはや周囲の学生達がサイ達に向ける視線は氷の様に冷たく殺意を感じさせるのだが、両腕からピオンとヴィヴィアンの温かくも柔らかい胸の感触を感じているsa……巨乳好きな馬鹿には何の効果もなかった。


 こういう時、巨乳好きな馬鹿は無敵である。


 ちなみにこの時、周囲の学生達の中で最も強く怨念のこもった視線を送っていたボインスキーは、ハンカチを噛み締めながら血の涙を流しており、周囲からドン引きされていた。

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