黒竜盗賊団
「お前達。いよいよ作戦を実行する」
ある日の夜。一人の男が数十人はいる自分の部下達に向かってそう宣言した。
部下達の前で宣言をしたのは、三十代くらいの無精髭を生やした体格のいい男で、元はどこかの国の軍服だと思われるボロボロの上着を羽織っていて、腰のベルトには剣や銃が差しこまれていた。そして男の部下達も全員、似たような格好をしていた。
「へへ……。やっとですかい」
「待ちくたびれましたぜ」
三十代の男の宣言を聞いて男の部下達が笑みを浮かべる。それは獲物を見つけた獣のような、自分の力を早く振るいたいといった狂気を秘めた笑みであった。
「それにしても準備に半年もかけるなんて、毎度の事ながらお頭も用心深いよな……。こんなのさっさと襲っちまえばいいのに」
「馬鹿が! お頭が用心深いお陰で俺達『黒竜盗賊団』は今までやってこれたんだろうが!」
今日まで半年間の間、作戦の準備の為に暴れられない日々が続いた事を思い出して、三十代の男の部下の一人がぼやくと隣にいた別の男が叱り飛ばす。
黒竜盗賊団。
世界各地で暴れ回り、その戦力は小国を壊滅させる程だとされる、世界の国々で最も危険視されている盗賊団。それが今ここにいる集団であった。
しかしいくら強大な力を持つ集団とは言え、見境なくただ暴れるだけではいつかは追い詰められてしまうだろう。それを防ぐ為に無精髭を生やした三十代の男、黒竜盗賊団の団長は慎重に時期を伺い計画を立てる事で国からの追跡を振り切り、今日まで黒竜盗賊団の名を世界各地に轟かせてきたのだ。
黒竜盗賊団の団長は、目の前の二人の部下のやり取りを見ていたが特に叱りもせず、二人の周りにいた他の部下達も苦笑を浮かべるだけであった。「早く思う存分暴れたい」というのはここにいる全員が思っている事であったからだ。
「長い間待たせてすまなかったな。だが作戦が始まったら遠慮は無しだ! 全員、思う存分暴れてこい!」
『おおう!』
団長の言葉に黒竜盗賊団の面々はそれぞれ声を張り上げる。気合い充分な部下達を見て団長は満足気に頷くと、早速今回の作戦を説明する事にした。
「それじゃあ作戦を簡単に説明するぞ。今回の俺達の狙いはアックア公国の士官学校と大学にいる貴族のガキ共だ。士官学校では全兵科合同の軍事演習とやらをするらしく、教官や護衛の多くがこちらに取られる。そこを狙う」
そこで団長は一旦言葉を切ると、懐から一枚の手紙を取り出してその内容に目を通しながら作戦の説明を再開した。
「『豚』からの報告によると、俺達の目的である貴族のガキ共は今学園で大人気の『美少女』の取り巻きとなっていて、軍事演習でもその美少女と一緒に一箇所に集まる予定らしい。俺達にしてみれば格好のカモだよな?」
手紙を見ながら口元に呆れたような笑みを浮かべながら作戦を説明する団長であったが、それを聞いていた黒竜盗賊団の面々も似たような表情を浮かべていた。
「何と言うかそれは……。その『美少女』の魅力が凄いのか、貴族のガキ共が馬鹿すぎるのか分かりませんね。まぁ、その分俺達は仕事がやり易くていいですが」
そう言ったのは、団員をいくつかの部隊に分けて行動する時に、その部隊のいくつかを指揮する部隊長役の男であった。部隊長の男の言葉に団長が頷く。
「ああ、全くだな。貴族なんてのにはロクな奴がいない。奴らは何の力も無いくせに下の者から税金だの何だの奪い取っていく、俺達以下の寄生虫だ。だから俺達は貴族の奴らから楽に、それでいて派手に稼がせてもらうんだよ」
「俺も貴族の奴らは嫌いですけど、団長の貴族嫌いは相変わらずですね」
団長の言葉に部隊長の男が苦笑する。団長が今言った通り、黒竜盗賊団の主な対象は各国の貴族であり、それもまた黒竜盗賊団の名が各国に知れ渡っている要因であった。
「そう言えば以前報告にあったゴーレムトルーパーの操縦士はどうするんですかい? 確かフランメ王国からの留学生で、その軍事演習にも参加するんですよね?」
『『……!』』
部隊長の男が団長に質問すると、それを聞いていた黒竜盗賊団の団員達の表情に緊張が走る。もしゴーレムトルーパーと出会ったりしたら自分達では万が一の勝機も無い上に、ゴーレムトルーパーがなかったとしても、その操縦士が厄介極まりない存在である事はここにいる全員よく知っていた。
「安心しろ。『豚』からの報告では学園の何処にもゴーレムトルーパーの姿はなく、軍事演習で使われるような予定はないとある。……まぁ、当然だわな。そしてその操縦士も『美少女』サマと貴族のガキ共の一団とは離れた場所にいるみたいだし、お前らがもたつかなかったら戦わずにすむだろうよ」
団長がそう言うと、団員達は明らかに安堵した表情となる。だが団長はそんな団員達をよそに手紙を見ながら呟く。
「それにしてもフランメ王国の留学生……フランメ王国か。俺もよくよくあの国と縁があるものだな」
「団長? そう言えば団長って昔はフランメ王国の軍人でしたっけ?」
一人だけ団長の呟きを聞いていた部隊長の男が聞くと、団長は忌々しそうな表情となって頷く。
「ああ、あの頃は本当に最悪だったぜ……。クライドっていうクソ貴族に散々こき使われた挙句、無茶な作戦に付き合わされて何度死ぬかと思ったことか……。あの時のお陰でこの黒竜盗賊団を作り上げる力を得たとは言え、あの時の事は思い出したくもないぜ……」
そう言ってから黒竜盗賊団の団長は自分の背後にある巨大な影を見上げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます