新たな三人のホムンクルス

 深夜。士官学校の敷地内にある、とある兵科の女子寮の一室で、一人の女性が机に座って一冊の本を眺めながら呟いていた。


「『計画』の実行は半年先にある全兵科合同の軍事演習で決まり。そこでターゲット達に私がデキる女だってところを見せつけてメロメロにしてからまとめてゲット。……うん。余裕余裕。私なら出来る」


 女性は自信に満ちた笑みを浮かべて一人呟くと、手元にある本に意識を移した。


「それでターゲットの中で本命はやっぱりアルベロ・ワーキウね。ワーキウ侯爵家の嫡男で騎兵科一の美形。それで彼以外のターゲットは……」


 今女性が見ている本は、士官学校に入学している全ての兵科の男子生徒の情報が記された資料であった。本来ならば一生徒が自室に持ち込むどころか閲覧すらも許されないものなのだが、女性はそんな事を気にする事もなく資料の情報に目を通していき「ターゲット」を選別していく。


「めぼしいのはこれくらいかな? ……それにしてもやっぱり全員婚約者がいるみたいね」


 女性は自分がターゲットに選んだ数名の男子生徒の名前を書いた紙を見て面白くなさそうな顔をする。


 女性がターゲットに選んだ男子生徒達は、アックア公国でも指折りの名家や大商人の家に生まれた、外見に能力に家柄と全てが備わった、士官学校の男子生徒の中で特に有望視されているエリートばかりであった。そしてそんな彼らには、すでに家同士で決められた婚約者がいた。


「どのターゲットの婚約者もいいところのお嬢様ばかり。特にアルベロ・ワーキウの婚約者なんて大公の第三女のブリジッタ・アックア……」


 そこまで言ったところで女性はブリジッタの姿を思い出して、非常に不愉快な表情となる。


「生まれながらのお姫様で、美人で、その上美形の婚約者までいて……恵まれすぎじゃない? 他のターゲットの婚約者達もそう。私なんて……!」


 不愉快な表情から憎しみの表情となった女性は、自らの胸の内に渦巻く嫉妬と憎悪を言葉に込めて吐き出すと、その目に強い怒りの光を宿らせた。


「決めた……! ブリジッタを初めとするお姫様達から婚約者の愛情を全部奪い取ってやる。『計画』を実行する前に自分達の婚約者が私の物になるところを見せつけてやる」


 そう呟いた女性は、口を三日月の形にした酷く歪な笑みを浮かべていた。


 X X X


 ドランノーガの下半身の竜の背部後方、上半身の人型の後ろ辺りには「ホムンクルス製造ユニット」という装備がある。


 これはサイが前文明の遺跡でゴーレムオーブからドランノーガを作り上げたばかりの時、ピオンの操作によってドランノーガが彼女を保存していた保存カプセルを吸収した事により、自己進化機能が働いて作られた装備である。この装備はピオンの予備の肉体を製造して保存しておく他に、彼女と同じ場所に保存されていた三人のホムンクルスの肉体も製造して保存する機能があった。


 しかしピオン以外の三人のホムンクルスは、保存カプセルに何かの不備があったらしく、サイが見つけた時にはミイラのような干からびた死体となっていた。その為、保存カプセルごと吸収した死体から得たデータを元に新しい肉体を製造していたのだが、それが完成したとピオンは言う。


 それを聞いたサイは周囲にモンスターの反応がない事から哨戒任務を切り上げ、人気の無い平原にドランノーガを着陸させた。着陸した後、サイとピオンは操縦席から出てドランノーガの背部後方にあるホムンクルス製造ユニットの前に移動した。


「それでは起動させますがよろしいですか、マスター?」


「ああ、やってくれ」


 サイが頷いて見せるとピオンはホムンクルス製造ユニットに指先を接触させる。すると指先が接触した箇所が一瞬だけ光り、続いてホムンクルス製造ユニットが起動した。


 ホムンクルス製造ユニットには三つのドアが横に並んでいて、その三つのドアが一斉に上にと開く。開かれたドアの奥にはそれぞれ一人の人影が見えた。


「「「………」」」


 ドアの奥に見える三人の人影は最初は全く動きを見せなかったが、しばらく経つと三人とも動き出して、三人同時にホムンクルス製造ユニットの外に出てその姿を見せた。


「おおおっ!?」


 ホムンクルス製造ユニットから出てきた三人のホムンクルスは全員女性で、彼女達の姿を見てサイが思わず声を上げる。


 まず向かって右側にいるのは金髪の女性で、背丈はピオンと同じくらいであり、幼さを見せる顔立ちはサイよりも少し歳下の印象を抱かせた。


 次に真ん中にいるのはほとんど黒に近い紫の髪の女性で、背丈はサイよりも高く、憂いを帯びた大人びた表情はこの中で最も歳上、二十代前半くらいの大人の女性のように見えた。


 最後に左側にいるのは白い髪に褐色の肌をした女性で、背丈はサイよりも高いが真ん中のホムンクルスの女性よりも低いくらいで、サイよりも少し歳上のような感じをさせた。


 三人とも同じホムンクルスであるピオンと負けず劣らずの、頭に「絶世の」がついても可笑しくないくらいの美女、美少女揃いであった。しかしサイの関心はそこではなかった。


 サイが見ているのは三人の顔ではなくやはり胸。三人のホムンクルスの女性達は、形や大きさは異なるものの、全員が見事な巨乳なのであった。


 そしてこれは今更ではあるが、三人のホムンクルスの女性達は今肉体が完成されたばかりなので衣服を着ておらず、サイは隠すものがない六つの肉の果実を瞬き一つせず凝視していた。そして……。


「お、お、お……。男の夢の! 巨乳ハーレムがここに実現した! ドランノーガ、ありがとぉーーーーー!」


 三人の裸の巨乳に感動したサイ……もとい、巨乳好きな馬鹿は夜空に向かって叫んだのだった。

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