砲兵科入学
士官学校と大学が一つになったアックア公国の学園は、敷地の左半分に大学関係の建物が、右半分に士官学校関係の建物が建てられている。
士官学校とかつてサイが通っていた軍学校は、その教育内容が大きく異なっていた。軍学校が全ての兵科で共通している基本的な知識や技術を教える「兵士を育成する」教育であるのに対し、士官学校はその兵科でしか適用されない兵器や兵士の運用等といった専門的な知識や技術を教える「指揮官を育成する」教育なのである。
その為、士官学校では合同のものではない訓練や授業は、兵科ごとに違う建物で行われていた。士官学校の敷地内でいくつもの建物が建ち並んでいたのはそういう意味もあった。
そんな士官学校の建物の一つ、砲兵科の授業が行われる建物の中をサイとピオンが歩いていた。二人がここにいる理由は言うまでもなく、砲兵科の生徒として入学したためである。
「ここが今日から私達が通う砲兵科ですか。中々よさそうな所ですね、マスター?」
「ああ、そうだな」
「砲兵科を選んだのはいい選択だと思います。私達が乗るドランノーガは砲撃戦に秀でた機体ですから、ここで学ぶことはきっとマスターのためになるはずです」
「ああ、そうだな」
「気になるのは暮らす場所ですよね。昨日までは大公様のお屋敷に高級宿のスイートルームだったのに、今日から学生寮だなんて……。仕方がないとはいえ差が大きいですよね」
「ああ、そうだな」
「……? マスター?」
「ああ、そうだな」
ピオンが気になって隣を歩くサイを見てみると、サイは心ここに在らずといった表情で同じ言葉を繰り返していた。
「マスター? おーい?」
「ああ、そうだな」
「むー。マスター、ちょっと手をお借りしますね?」
「ああ、そうだな」
「うりゃ」
むにゅ♪
「………!? な、何をするんだよ、ピオン!」
ピオンは何を言っても同じ言葉しか繰り返さないサイの手を取ると、その手を自分の谷間に突き刺した。するとホムンクルスの少女の乳房の感触で正気に戻ったサイが顔を赤くして彼女を見る。
流石巨乳好きな馬鹿。どんな状態になっても胸(巨乳限定)を触るだけですぐに回復するとは便利な体質である。
「ようやく元に戻りましたね。全く……一体何をそんなに落ち込んでいたんですか?」
「何を……て。あの門の前の事だよ」
少し呆れたような顔で聞いてくるピオンにサイは視線を逸らしながら答える。彼が言っているのは、学園の入り口の門の前で風によってホムンクルスの少女のスカートがめくれて、彼女の裸の尻をその場にいた生徒達に見られた件である。
「ああ、そんな事ですか。別にいいじゃないですか? 下着なんて着るの面倒臭いですし、それにマスターだってこの方がうれしいでしょう? ……ほら?」
「ちょっ!? ピオン、お前何をやっているんだ!」
サイが落ち込んでいる理由を理解したピオンはそう言うと右手で胸元を広げ、左手でスカートを軽く持ち上げて見せる。それによってサイが顔を赤くして後、慌てて周囲に誰もいないか確認しだすと、彼女は楽しそうな表情となる。
「それよりも早く行きましょう、マスター。大丈夫ですって。生徒の皆さんは私を珍しがるかもしれませんが、見た目地味なマスターをそこまで注目しませんって。門の前では注目を集めましたが、あんなのは最初だけですよ」
「今、サラッと失礼な事を言われた気がしたけど……まあ、それもそうか」
ピオンとの会話でいくらか気が軽くなったサイは、彼女と一緒に自分達が授業を受ける教室へと向かった。
結論から言うと思いっきり注目された。
どうやら門の前での出来事はすでに砲兵科の生徒達にまで広まっていた様で、サイとピオンが教室に入るとすでに教室に来ていた生徒達は全員二人に注目した。その中でも特に強い視線を向けて来たのはサイの隣に座るボインスキーという男子生徒で、彼は午前の授業中ずっと血の涙を流さんばかりの表情でサイを睨みつけていたのだった。
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