最悪のスタート

 そしてサイがピオンの学生服姿を絶賛した日から数日後。その日の朝、高級宿のスイートルームで眠っていたサイは、息苦しさから目を覚ました。


「……………ん? んん!?」


 目を開いても何も見えず、顔中に温かくて柔らかい感触を感じたサイは意識を一気に覚醒させる。そして意識を覚醒させた青年は自分の顔と、顔の上にのしかかっている「何か」の間に両手を潜り込ませると、両手に力を込めて顔にのしかかっている「何か」を持ち上げた。


「やん♪」


 聞き覚えのある女性の甘い声が聞こえるのと同時に、それまで何も見えなかった視界に光が差し込んでくる。光を取り戻したサイの目の前にいるのは一糸纏わぬ裸の姿のピオンで、先程まで顔にのしかかっていたのは彼女の胸にある豊かな乳房であった。


 ちなみにピオンの豊かな乳房はサイの両手の中で卑猥に変形しており、サイの視線は自分の手の中にある肉の果実に釘付けとなっていた。


「おはようございます、マスター♪」


「ああ、おはよう」


 朝の挨拶をするピオンにサイも目線は自分の両手に向けながら挨拶を返す。


「ふふっ♪ マスターってばこの起こし方をするとすぐに起きるのですね♪」


 ピオンはサイに向けてからかうように言う。このホムンクルスの少女は、このアックア公国に来てからずっと主人である青年と同じ部屋で寝て、朝になると今日のように胸を顔に押し付けて起こしてくるのだ。


「こんな事されたら誰だって起きるに決まっているだろ? 顔ごと口を塞がれて死んだらどうするつもり……」


「あら? 私の胸はお気に召しませんでした? それではもうしないほうがいいですか?」


「そんなわけないだろ。ピオンの胸、最高に気持ちよかったです。これからも毎朝お願いします」


 苦情を言おうとしたのにピオンにもう止めようかと言われた途端、無駄に凛々しい顔で手の平返しをするサイ……ではなく巨乳好きな馬鹿。


 自分の命よりも巨乳の感触を優先。


 この辺りがサ……巨乳好きな馬鹿が巨乳好きな馬鹿である所以だろう。


 そしてピオンはサイの言葉に満足したのか満面の笑みを浮かべる。


「それはよかったです♪ ではそろそろ準備をしましょう。何せ今日は士官学校の入学日なのですから」


 X X X


 アックア公国の士官学校は、首都の外れの方にあって非常に広い敷地を持ち、その広さはサイの故郷のイーノ村が二つ入るくらいであった。


 これはここにあるのは軍人を育成する士官学校だけでなく、専門の学問を学ぶ大学も一緒になって一つの学園となっている為で、ここでは「武」と「文」と分野は異なるがアックア公国の次代を担う若者達が、顔を合わせてお互いに訓練や学問に励んでいた。


 そんな場所に表向きは留学という形で入学する事になったサイは、学園の入り口である門の前で学園内に建ち並ぶ建物を驚いた顔で見上げていた。


「凄い立派な建物だな……。リードブルムの城と同じくらい立派なんじゃないか? 今日からここで学園生活を送るのか……大丈夫かな?」


 フランメ王国の軍学校では家が貧乏男爵家である事と異能が戦闘向けではない事から差別されてきたサイは、これから始まる第二の学園生活に不安そうな表情を見せる。


「大丈夫ですよ。マスターでしたらきっと上手くいきますって。ほら、行きましょう」


 ピオンは不安そうな顔をするサイに明るく言うと、彼の先を行き学園へ入ろうとする。……その時、悲劇が起こった。


 今サイとピオンが学園の入り口である門の前。当然そこには二人だけでなく学園の在校生や今日から入学する生徒も大勢いる。


 そんな生徒達に混じってピオンが学園に入ろうとした時、一陣の風が吹いた。


「きゃ!」


 突然の風にピオンはとっさにスカートの前を押さえるのだが、後ろがめくれてスカートの中が見えてしまった。


 それだけならまだいい。それだけならピオンには災難で、後ろにいた男子生徒達には幸運の、ちょっとしたハプニングで済んだだろう。


 だが問題はピオンのスカートの中にあった。


 風によってめくれたピオンのスカートの中にあったのは下着をはいていない裸の尻であった。


『『……………!?』』


 サイを初めとするピオンの後ろにいた生徒達は彼女のスカートの中を見てしまい揃って固まってしまう。そして固まってしまった生徒達は先程見た光景の衝撃から立ち直ると、ホムンクルスの少女とその隣にいる男子生徒、つまりサイに視線を集中させる。


 男子生徒からは嫉妬と僅かな尊敬の、女生徒からは侮蔑と嫌悪の視線を一斉に向けられたサイは……。


「さ、さ、最っっっ悪じゃぁぁーーーーーーっ!」


 と、空に向かって大きく叫んだ。


 こうしてサイは、風のイタズラにより第二の学園生活で最悪のスタートを切る事になったのだった。

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