重大な事実
「な、何だよ……コレ……?」
ドランノーガの主砲によって焼け野原と化した目の前の光景を、サイは信じられないといった顔で見て、そんな彼にピオンが誇るような表情で話しかける。
「お疲れ様です、マスター。これで戦闘訓練は終了です。それにしても初戦闘であれだけの数のモンスターを退治するとは、流石はマスターとドランノーガです♪」
「……え? いや、それよりコレって……本当に?」
満面の笑みで称賛をしてくれるピオンだったが、サイはそれに喜ぶ余裕はなく、ひきつった表情で彼女の方を見ながら外を指差した。
「? 何を言っているのかは分かりませんが、外が気になるのでしたら実際に出てみたらどうですか?」
「……………ドランノーガ、外に出してくれ」
『………!』
首を傾げるピオンに言われてサイは、ドランノーガの下半身の竜の胸部装甲を展開させる。すると外から熱い空気が操縦席に流れ込んできた。
「……っ!」
熱い空気を肌で感じ、映像ではない実際の焼け野原を目にし、土が焼ける臭いを嗅いでサイはドランノーガが、いや、自分がこの惨状を生み出した事を理解した。
「何だよコレ……。冗談じゃないぞ。これじゃあモンスターなんかよりもドランノーガの方がよっぽど世界を滅ぼす災害じゃないか……」
焼け野原を見ながら呟くサイの言葉にピオンが苦笑する。
「気持ちは分かります。ですがマスター? 確かにドランノーガは強力な機体ですが、私に記憶された記録では前文明のゴーレムトルーパーは全て、ドランノーガのような武装を持っていたそうですよ?」
「嘘ぉ……」
ピオンの言葉にサイはそう返す事しかできなかった。
軍学校の歴史で前文明の人類は、モンスターと存亡を賭けた激しい戦争を繰り広げたと習った。ドランノーガのような武装を持つゴーレムトルーパー達とモンスターの戦い……それは一体どんな地獄のような戦いだったのだろうか?
(俺、前文明に生まれなくてよかった……。そんな戦いに巻き込まれたら生きていられる自信がない……)
「マスター、あれを見てください」
サイがそんなことを考えていると、ピオンが焼け野原のある一点を指差した。常人では何も見えないが、ナノマシンによって身体能力を強化された二人にはそこにあるものが見てとれた。
「あれは……ネズミの尻尾か? ……それにしては大きいような気がするけど?」
ピオンが指差した先にあったのは、所々焼き焦げてちぎれたネズミの尻尾らしきものであった。しかしそれはサイが言った通りネズミの尻尾にしてはあまりにも大きく、牛の尻尾くらいの大きさに見えた。
「多分、あの大群のモンスターの尻尾ですね。……あのモンスター、ネズミを食べて異常な繁殖能力を手に入れたのですね。まぁ、予想通りといえば予想通りですけど」
「ピオン? それってどういうことだ」
一人で納得したように頷くピオンにサイが聞くと、ホムンクルスの少女は何でもないように答えた。
「いえ、ただあのモンスターの大群はどこかでネズミを食べて、異常な繁殖能力をもつ存在に進化していたという話です。ですがもう退治したから終わった話ですけどね」
食べる、そして進化。ピオンの口から出た二つの単語を聞いてサイの能力に一つの単語が浮かび上がった。
「食べて進化するって……それってゴーレムトルーパーの自己進化機能みたいじゃないか?」
「みたいな、じゃなくてその通りですよ。そもそもゴーレムトルーパーの自己進化機能は、モンスターの能力を元に開発されたものなのですから」
「……!?」
何でもないように言うピオンの言葉にサイは思わず絶句。更に……。
「マスターは知っているか分かりませんが、モンスターって元は前文明が開発した生物兵器なんですよ。でも実験段階で今回みたいな繁殖能力が強い生物を取り込んだせいで異常繁殖した挙句に暴走をしてしまって……。それで暴走したモンスターに対抗する為に開発されたのがゴーレムトルーパーというわけです」
「……………!?」
続けて告げられたピオンの言葉にサイは再び絶句して目を見開いた。今までモンスターが何処から現れたのかは謎とされていたのだが、まさか前文明の人類が作り出した生物兵器だったとは予想外であった。
思わぬ形であっさりと告げられた事実に、それを聞いたサイは固まってしまう。すると……。
「ほう? それは中々興味深い話だな? あいつが聞いたら喜びそうだ」
と、聞き覚えのない声が下から聞こえてきた。
「え?」
「誰ですか?」
サイとピオンが下を見下ろすと、そこには長く伸ばした艶のある黒髪をポニーテールにした二十代頃の女性が、好戦的な笑みを浮かべて二人を見上げていた。
「あの、貴女は?」
「私か? 私の名はビアンカ・アックア。お前達に吹き飛ばされたあのゴーレムトルーパーの操縦士だと言えば分かるか?」
「ええっ!? 貴女があのゴーレムトルーパーの!? それは大変申し訳ありま……せ……」
今自分達を見上げているのが、戦いの最初でピオンが吹き飛ばした大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの操縦士だと知って頭を下げて謝罪をしようとするサイだったが、その時にある事に気付いた。気付いてしまった。
ビアンカ・アックア。
今自分達を見上げている女性が名乗った「アックア」という姓が、フランメ王国の隣国……つまり今サイ達がいるこの「アックア公国」を統べる大公の一族と同じ姓である事を。
「………!?」
重大な事実に気付いたサイは頭を下げて謝罪をしようとした体勢のまま彫像のように固まり、全身から滝のような汗を流すのだった。
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