戦闘開始前に……
「マスター、よろしかったのですか?」
空から降ってきた竜に乗った騎士のゴーレムトルーパー、ドランノーガの操縦席でピオンは自分の隣に座っているサイに話しかける。
「何がだ、ピオン?」
ピオンの言葉の意味を理解していないサイが聞き返すとホムンクルスの少女が説明をする。
「あのゴーレムトルーパーの前でドランノーガの姿を見せたことです。ゴーレムトルーパーに乗って無断で隣国にやって来た事が分かれば、最悪侵略行為をしに来たと思われますよ?」
自分と同じ存在でしか倒される事がない惑星イクス最強の兵器ゴーレムトルーパーは単騎で都市を壊滅させるだけの力を持つ。その為、自国のものではない正体不明のゴーレムトルーパーが現れたら今ピオンが言った通り、そこにいる人間は侵略行為をしに来たのではないかと警戒するだろう。
そして加えて言えば、ゴーレムトルーパーの操縦士はどの国でもほぼ間違いなく重要な地位にいる存在だ。あの大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの前でドランノーガを見せた以上、ドランノーガの存在はこの国に知れ渡り、ドランノーガの操縦士であるサイがフランメ王国に所属していると分かると、フランメ王国が侵略行為を行なってきたのではないかと言う者も出るかもしれない。
「っ! ……だけど、こんなの無視できるはずないだろ?」
ピオンに説明されてサイは、自分がとった行動がどのような結果を生むか理解するが、それでも反論する。
飛行訓練中にバランスを崩してどこか着地できる場所がないか探していたサイは、街を襲撃しようとしているモンスターの大群を見つけると、考えるより先にその場にドランノーガを移動させた。その後、大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの横をすり抜けて街に向かおうとする十数匹のモンスターをドランノーガの武装を使って焼き払い今に至る。
ピオンが言っている事も理解できるのだが、サイは自分のとった行動が間違っているとは思っていなかった。
「ここで無視なんかしたらあの街はモンスターに襲われていたし、このまま放っていたらイーノ村にもあのモンスターが来るかもしれないだろ?」
(確かにマスターのご家族がいるイーノ村は守るべきですけど、あの街まで守る必要はないのでは?)
サイの言葉を聞きながらピオンは心の中でそう呟いた。
ピオンは自分の主人であるサイと彼が心を許した周辺の人間達には深い愛情を持つが、それ以外の人間は必要であればためらう事なく切り捨てる非情さを持っていた。そんなホムンクルスの少女には、やはりドランノーガの姿を見せてまで街を守る理由が見出せなかった。
(でも、もう姿を見せてしまいましたし、ここからマスターの行動を助けていくのができる従者、そして伴侶というものですよね)
気持ちを切り替えたピオンは、サイがとった行動をどうすれば彼の有利に働くようになるのかを考える。
「そうですね。では折角ですから、戦闘訓練も兼ねて私達だけであのモンスターを退治しちゃいましょう。ドランノーガでしたらあの程度のモンスター、あれの倍の数がいても余裕ですし、ドランノーガ一機だけでモンスターの大群を倒したらマスターの名声を高める材料になるでしょう」
「分かった。やってみる………ん? 今『私達だけ』とか『ドランノーガ一機だけ』とか言わなかったか?」
ピオンの言葉に頷いてドランノーガを動かそうとするサイだったが、返事をして数秒遅れてホムンクルスの少女の言葉に気になる点があるのに気付いた。
「ええ、言いましたよ。ですから先ずは……マスター? ちょっとだけドランノーガの操縦権を渡してくれませんか?」
「え? ああ、いいけど……?」
サイが操縦権を隣の席に移すと、ピオンは自分の席の肘掛けにある球体を握り、ドランノーガに命令を出す。
「では、行きますよー♪」
『………!』
ピオンの命令を受けたドランノーガは、脚部と尻尾の噴出口から炎を噴き出して高速で前方に飛び出した。最初は遠くにいる為小さく見えていたモンスターの大群と、それと戦っている大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの姿が距離が近くなり大きく見えてきたところで突然、目の前の光景が高速で左へと移動した。
「………っ!?」
突然目の前の光景が高速で左へと移動してそれと同時に体の右からの力を感じたサイは、かろうじてピオンがドランノーガの機体を右へ高速で回転させたのを理解したが、何故彼女がそんな事をしたのか理解できなかった。そして回転が終わり視界が元に戻ると、そこには先程まで戦っていた大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの姿がなく……。
大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーは、ドランノーガの右方で宙を舞っていた。
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