戦闘開始
「………? ……………!?」
最初、サイは何が起こったのか分からなかった。ドランノーガの操縦をしていたピオンが機体を横に回転させたかと思えば、目の前にいたはずの大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーがいなくなり、右の視界の端で宙を舞う巨大な影を捉えた時は思わず自分の目を疑った。
宙を舞う巨大な影……大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーが空を飛んでいた時間はほんの数秒だけ。しかしサイにはそれが非常に長い時間のように感じられた。
大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーは地面に激突するとあまりの勢いに二度跳ね飛び、地面に倒れるとそのまま動かなくなった。その姿を見てようやくサイは事態を把握した。
ピオンに操縦されたドランノーガが、その尻尾で大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーを横から薙ぎ払い、遥か遠くまで吹き飛ばして戦闘不能にしたのだ。
「……えっ? ちょっ……! こ……れ……」
「うん♪ 上手くいいのが当たりましたね。何気に私もドランノーガを動かすのは初めてだったんですけど、やればできますね、私♪」
驚きのあまり開いた口が塞がらずうまく話せないサイの隣で、いい仕事をしたと言わんばかりの爽やかな笑顔を浮かべるピオン。そんなホムンクルスの少女に青年は「ギ、ギ、ギ……!」という擬音が聞こえてきそうなぎこちない動きで顔を向けた。
「それではマスター、ここからはお願いしますね。ドランノーガの操縦権は戻して「ちょっと待てぇぇ!」……はい?」
ようやく話せるくらいには精神的に回復したサイは、ピオンの言葉を大声で叫んで遮った。
「どうしたんですか? そんなに大声を出して?」
「どうした、じゃないよ! 何アレ!? 何だよアレはぁあ!?」
首を傾げるピオンに対してサイは思わず席から立ち上がって操縦席の壁が映し出す景色の一点を指差す。彼が指差す先にはドランノーガの尻尾に一撃により戦闘不能となった大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの姿があった。
「どうしてぇ!? ねぇ、どうして味方のゴーレムトルーパーを後ろから攻撃するのぉ!? あれ、メチャメチャ勢い良く飛んで地面にぶつかったから操縦士の人、絶対気絶しているってぇ! というか死んでいないよねぇぇ!?」
「ですからマスター名声を高める為にモンスターの大群を私達だけで倒すって言ったじゃないですか? その為にはあのゴーレムトルーパーが邪魔でしたので、強制的に退いてもらっただけです。後、あのゴーレムトルーパーのコックピット……下半身の大蛇の頭部には損傷はなくて生体反応がありますから操縦士の方は生きていますよ」
「そういう問題じゃないだろぉぉぉっ!?」
焦りのあまり語尾が延びるような大声で質問をしたサイは、マイペースに答えるピオンに向かって叫ぶと頭を抱える。
(どうする!? どうしたらいいんだよコレェェェ!? 操縦士が生きていればいいってものじゃないだろ!? 他国のゴーレムトルーパーを背後から奇襲して一撃で戦闘不能にするなんて、もうコレ、宣戦布告じゃないの!? 侵略行為どころか宣戦布告だって! 普通これってあのゴーレムトルーパーと協力してモンスターの大群と戦うって場面じゃないの!?)
サイが顔を青くして頭を抱えていると、ピオンはそんな自分の主人の心を読んだかのように話しかける。
「大丈夫ですよ、マスター。あのモンスターの大群をドランノーガを使って退治すればいいだけです。そうすれば私があのゴーレムトルーパーを吹き飛ばした事も誤魔化せますし、あの街も助かって、イーノ村がモンスターに襲われる恐れもなくなります」
何でもないように言うピオンだが、それは逆に言えばサイ達やあの街の住民達、そしてサイの家族を含めたイーノ村の村人達の全ての運命がサイの戦い方次第ということで……。
「責任が大きすぎる!? そんな大勢の人の命なんて俺には重すぎるってぇぇ! やっぱりあのゴーレムトルーパーと一緒に戦った方がよかったんじゃないのぉぉぉっ!?」
自分の肩にのし掛かった重責の重さにサイが半泣きになって叫ぶと、ピオンは腕を組んで何かを考える表情となって口を開く。
「……ふむ。マスターが言いたいことも分かるのですが、それでもやっぱりあのゴーレムトルーパーでは足手まといにしかならないんですよ。ドランノーガの攻撃の余波にも耐えられそうにないっていうか……。マスター? この時代のゴーレムトルーパーって全て『あんなの』なんですか?」
ピオンの言葉の意味が分からないサイが、怪訝な顔となってホムンクルスの少女の顔を見る。
「ピオン? お前、何を言って……」
「っ! マスター! モンスターが!」
「なっ!?」
ピオンの言葉に反応してサイが周囲を見ると、モンスターの大群が街に向かって移動しようとしていた。モンスターの大群は、ドランノーガが大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーを攻撃した時の轟音や衝撃によって混乱し、今まで動きを止めていたのだが、混乱が回復したことで行動を再開したようだった。
「………!? 分かったよ! 俺とドランノーガだけでモンスターを全て倒せばいいんだろっ!? やってやるよ!」
街を襲撃しようとするモンスターの大群を前に、もはや一刻の猶予もないと悟ったサイは自棄糞気味に叫ぶとドランノーガを操縦するのだった。
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