炎、後に竜騎士
それは突然の事であった。
正午を少し過ぎた頃、街の見張り台よりモンスターや盗賊などの敵の襲撃を知らせる緊急時用の鐘が鳴り響く。緊急事態を告げる鐘の音を聞いて凍りつく街の住民達が次に聞いたのは、街の警備隊によるモンスターの群れがこちらに向かってきているという凶報。
昨日に続いて今日もまた街がモンスターの襲撃を受けた事実に、街の人達は戸惑い恐怖しながらも自分達がすべき行動をとる。
一般の市民は最低限の荷物を持って家族の手を取り避難場所に移動し、警備隊は避難が少しでも早く完了するように市民を誘導する。ちなみにこの時、警備隊は人手の全てを避難誘導に回しており、こちらに近づいてきているモンスターの迎撃は、すでに街の外に出撃している一機のゴーレムトルーパーに全てを託していた。
街の外にいるのは人型の上半身と大蛇の下半身を持つ、大蛇に乗った騎士のような外見のゴーレムトルーパー。
昨日、この街を襲撃しようとしたモンスターの群れを退治した惑星イクスの最強兵器は、今日もまたモンスターの群れを退治しようと出撃したのだが、そこで大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの操縦士は信じられないものを見た。
「な、何だあれは……?」
大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの操縦席で、操縦士は目の前の光景を見て思わず呟く。
操縦士の視線の先にあるのは、地平線を埋め尽くさんばかりの何百何千というモンスターの群れ。そしてその群れのモンスターは、先日退治した猪の姿をしたモンスターであった。
「あれは昨日の……!? まさか昨日退治したのはあの大群からはぐれた一部だったというのか? いや、しかし、それはない筈だ……」
操縦士は思わず口に出た自分の言葉をすぐさま否定する。
あんな何百何千のモンスターの大群がいれば人目につかない筈がない。国中から目撃情報が集まり、この大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーを含めた自国にある三機のゴーレムトルーパー全てを投入して討伐に乗り出す筈だ。
「だが、それではあのモンスターの大群は何処から……っ!?」
疑問を口にした操縦士は、その直後にモンスターの大群が現れた「答え」を見つけた。
操縦士がその「異変」に気付いたのは単なる偶然だった。たまたま目に止まった大群の先頭を走るモンスターの一匹が動きを止め、動きを止めた次の瞬間に腹部が膨れ上がって破裂して、腹部から小柄のモンスターが数匹産まれ出たのだ。
産まれ出たモンスター達は、腹部が破裂して死亡した自分達の親であるモンスターの血肉を喰らい、瞬く間に周りと同じくらいの体の大きさに成長する。そして一分に満たない時間で親のモンスターの血肉を喰らい尽くし成長したモンスター達は、周りの仲間と同じ方向……つまりこの街の方へと走り出す。
一度気づいてから見てみれば、大群のいたる所で同じ出来事が起こっていた。
走り続けている内に子供が宿り、腹の中に子供を宿したモンスターは自分の命と引き換えに子供を産み、産まれた子供達は親の血肉を喰らい尽くして成長する。そしてこうして産まれた子供達もまたすぐに親と同じ運命を辿る。
非常におぞましく、そして高速の自主繁殖。自主繁殖を繰り返して数を増やしながらこちらに向かってくるモンスターの大群に、操縦士は思わず吐き気を覚えて口元に手を当てた。
「う……! ああやって数を増やしていたのか……!」
操縦士は吐き気を堪えながらも闘志を燃やした目でモンスターの大群を睨みつける。
あのモンスターの大群は危険だ。ここで退治しておかないと、最悪この国の全てを飲み込む災害となってしまうだろう。
そして今モンスターの大群を退治できるのは自分しかいない。そう自分に言い聞かせた操縦士はゴーレムトルーパーを操作してモンスターの大群へと突撃した。
「おおおっ!」
『………!』
操縦士の気合のこもった雄叫びに応えるかのように、大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーは上半身の人型が持つ槍、または下半身の大蛇の尾を力強く振るう。それによってモンスターの大群は、槍か尾が振るわれる度に十匹単位で吹き飛ばされていく。
モンスターの大群も大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーに反撃をするが、精々が装甲に軽いかすり傷やへこみをつける程度で、ゴーレムトルーパーは気にする事なく大群のモンスター達を時には切り裂いて貫き、時には薙ぎ払って押し潰していく。そして死んだモンスターからは子供が産まれ出る様子がなく、それに気付いた操縦士は勝機を見出した気がした。
「これなら……いけるか!?」
叫びながら操縦士は攻撃の手を更に強める。
モンスターの大群の攻撃はゴーレムトルーパーに全く通じず、逆にゴーレムトルーパーが一度攻撃すれば何十匹ものモンスターが倒れて、死んだモンスターからは新たなモンスターが産まれ出る心配もない。これだけを見れば大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーの方が有利に見えるだろう。
実際、最初の内は大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーが一方的にモンスターの大群を屠っていたのだが、時間が経っていくと戦況は逆にモンスターの大群の方が有利になっていった。
「く……! いくら殺しても減らない……。いや、むしろ増えている!?」
操縦士はいくら屠っても一向に数が減らず、それどころかむしろ数が増えていくモンスターの大群を見て歯噛みする。
モンスターの大群はただでさえ最初から何百何千という数がいた上に、大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーが一度の攻撃で何十匹以上のモンスターを倒しても、モンスターの大群はそれ以上速さで新たなモンスターを生み出すのだ。
当然、大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーだけではモンスターの大群の対処が追いつかなくなっていき、その隙を突いて十数匹のモンスターがゴーレムトルーパーの横をすり抜けた。
「っ!? しまった!」
横をすり抜けて行った十数匹のモンスターを見て操縦士が焦った声を出す。大蛇に乗った騎士のゴーレムトルーパーは、モンスターの大群の大部分を相手にしていてこの場を動くことができず、もしこの場を動いたらより多くのモンスターが街に向かってしまうだろう。
もはやあの十数匹のモンスターが街を襲うのは止められない。
街の一般市民の避難は完了したのか? 街にいる警備隊はどれだけモンスターの足止めができる? 警備隊が戦っている間にこのモンスターの群れを退治できるか?
操縦士がモンスターの大群と戦いながら焦った頭でそんな事を考えていたその時、突然空から炎が降ってきた。空から降ってきた炎は、街へと向かっていた十数匹のモンスターを一瞬で焼き尽くして灰にする。
「………何?」
いきなりの出来事に操縦士、そしてモンスターの大群までもが思わず動きを止めると、次は空から巨大な影が降ってきた。
炎に続いて空から降ってきたのは、人型の上半身と背中に翼を生やした竜の下半身を持つ、竜に乗った騎士のような外見のゴーレムトルーパーであった。
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