飛行訓練
「次は飛行訓練をしてみましょうか」
「………………………………………え? ドランノーガって飛べるの?」
飛行訓練。
ピオンの口から出た言葉に、サイがしばらく黙ってから聞くと、ホムンクルスの少女は少し怒ったような表情となる。
「もう! 飛べるに決まっているじゃないですか! マスターはドランノーガの知識を持っているのですからご存知の筈でしょう?」
「いや、まぁな……」
ピオンが言う通り、サイはドランノーガに関する知識を刻み込まれている為、この機体が飛べることを知っていた。それにドランノーガの下半身の竜の背中、上半身の人型の腰辺りに一対の翼があるのも実際に見ている。
だがそれでもサイの表情は優れなかった。
「でも俺、どうしても空を飛ぶドランノーガの姿を想像できないんだよ」
サイとピオンが乗っているドランノーガは、遠目から見ても一目で分かるくらい重武装かつ重装甲の機体である。それ故に当然総重量は非常に重く、知識では飛行は可能であると知っていてもサイはその知識を信用できないでいた。
そしてサイにはドランノーガが空を飛ぶ姿を想像できない理由がもう一つあった。
「というか空を飛ぶゴーレムトルーパーなんて聞いたこともないぞ?」
サイも現存する全てのゴーレムトルーパーを知っているわけではないが、それでも空を飛ぶゴーレムトルーパーなんて見たことも聞いたこともなかった。彼の中ではゴーレムトルーパーは地上を駆ける兵器であり、そういった固定観念が飛行訓練を躊躇わせていた。
「空を飛ぶゴーレムトルーパーなんて知らない? この時代のゴーレムトルーパーは総じて飛行機能を失っているのですか? ……まあいいです。とにかく大丈夫ですって、マスター。それに空でしたら周囲に気付かれる心配は少ないですからね」
「それはそうだけど……。だけど一歩歩かせた次がいきなり飛行訓練って……その、色々と順序を無視していないか?」
ピオンの言っていることは理解できるのだが、それでもサイは中々頷こうとせず、よく見れば顔色も少し悪くなっていた。恐らくは訓練中に墜落をした等の最悪の事態を想像しているのだろう。
「……ふむ」
ピオンはすっかり腰が引けているサイをしばらく見たあと、何かを思いついた表情になって口を開いた。
「ピオン?」
「マスター、ちょっと失礼しますね♩」
そう言ってピオンがサイの前まで立つと、そのまま彼女は突然の行動に驚くサイの頭に両手をそえる。
「え? な……?」
「とう♪」
むにゅん♪
「なっ!?」
サイの頭に両手をそえたピオンは、そのまま彼の顔に自分の乳房を押し付ける。
「まずは右ー♪ 次は左ー♪」
むにゅ♪ むにゅ♪
楽しげな声と共にピオンはサイの顔に右の乳房を押し付け、その後は続いて左の乳房を押し付ける。
「………!?」
「また右ー♪ また左ー♪」
むにゅ♪ むにゅ♪
「……………!?」
ピオンはゆっくりとした動きで再びサイの顔に自分の右の乳房を、左の乳房をに押し付ける。そしてこれを二度三度と繰り返してホムンクルスの少女は体を離した。
「はい、おーしまい♪」
「………! ………! ………………!」
顔を赤くして言葉を無くすサイにピオンは妖艶な笑みを向ける。
「マスター? 今日の訓練はこれで終わりですからもう少し頑張りましょうね? これが終わったらさっきのをマスターが満足するまでたっぷりしてあげますから……ね?」
「飛行訓練を開始するぞ。早く席につけ、ピオン」
妖艶な笑みを浮かべているピオンに無駄に凛々しい表情で言うサイ……ではなくて巨乳好きの馬鹿。その表情からは飛行訓練に対する恐れなど微塵も感じられなかった。
「はい♪ ではお願いしますね、マスター♪」
ピオンは乗り気になった自分の主人を見て満足気に頷くと自分の席に座り、それを横目で確認したサイはドランノーガに命令を出す。
「ドランノーガ、飛べ!」
『………!』
命令を受けたドランノーガは僅かに身を屈めると、脚部にある噴出口から炎を噴き出しながら大きく跳躍をする。そしてそのまま尻尾にある噴出口からも炎を噴き出して鋼鉄の巨像は空を飛んだ。
「飛んだ……。飛んでいる……」
操縦席の中から空の様子を見て呆然と呟くサイに、ピオンは笑みを浮かべて話しかける。
「だから言ったでしょう、マスター? ドランノーガは飛べるって。でも注意してくださいね? ドランノーガはずっと飛べるってわけじゃないので、降りても大丈夫な場所があるか地上の確認は忘れずに。もし人里の近くに降りてしまったら大騒ぎになってしまいますから」
ピオンがドランノーガの飛行時の注意点を述べる。
ドランノーガは、脚部と尻尾の噴出口から炎を噴き出しながら跳躍する事で高度と推進力を得た後、翼から力場を発生させて長時間の滑空飛行を可能とする。しかしある程度飛ぶと高度が維持できなくなり、一度地上に降りる必要があるのだ。
「ああ。分かっている」
この辺りの知識はサイの脳にも刻み込まれており、サイはピオンに頷いてみせた後、近くにある山脈の向こうを見た。山脈の向こうは隣国の領地で一度も行ったことはなかったのだが、ドランノーガという移動力を得た今、急に好奇心が刺激された。
「ピオン。あの山脈の向こうに行ってもいいかな?」
「マスターのご自由に。ただし人に見つからないようにしてくださいね?」
「了解。それじゃあ行くか」
サイはドランノーガを操作して山脈の向こう側、フランメ王国の隣国の空へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます