勝ち組?
「嬉しいですか、マスター?」
「え? いや、まぁ、そうだな……。巨乳の美人……じゃなくて、補助をしてくれるホムンクルスの巨……女性が増えるのは嬉しいな」
現在ドランノーガが三人のホムンクルスの女性の体を製造しており、しかも三人とも巨乳の美人であると聞いて真剣な表情で大いに喜んでいたサイは、ピオンに言葉に慌てて答える。しかしどこまでも巨乳好きの馬鹿であるため本音が駄々漏れであった。
そんな巨乳好きの馬鹿の発言を聞いてもピオンは嫌な顔を浮かべず、逆に楽しそうな表情を浮かべた。
「ふふっ♪ 別に隠さなくてもいいですよ。マスターが大きな胸が大好きな方だってことはもう充分理解していますから……ね♪」
「…………………………っ!?」
ピオンはそう言うと席から立ち上がり、小さく跳んで自分の乳房を揺らせて見せる。それによりサイの視線は彼女の揺れる乳房に釘付けになってしまう。
「私はゴーレムトルーパーの操縦士であるマスターを補助し、負担を減らす為に作られました。それは今、体を製造されている三人のホムンクルスも同様です。ですから私達の体でマスターのストレスが少しでも減るのでしたら、どうぞ何時でも何処でも自由に私達の体を『使って』ください。……ただし」
そこでピオンは言葉を区切ると、自分の乳房に目を奪われていたサイの顔を見つめる。その時の彼女は珍しくどこか拗ねているような表情を浮かべていた。
「あの三人のホムンクルスも、体が完成して起動すればドランノーガの専用オペレーターとしてマスターの補助をします。ですがあくまで私が『メイン』です。マスターが直接起動させてマスター登録を行ったのは私だけです。それだけは忘れないでくださいね?」
「アッ、ハイ……」
拗ねた顔をするピオンの言葉に、サイは目の前の魅力的な乳房のことも忘れて彼女の顔を見ながら頷いた。
(あ、あれ? ピオンってば俺に嫉妬してくれているの? これから増える三人のホムンクルスに対抗心燃やしてる? 人生の春が俺にやって来たのか……って、んん?)
ピオンの言葉と態度にサイが思わず胸を高鳴らせていると、彼はふとあることに気付いた。
(……もしかして俺って、現時点でかなりの勝ち組なんじゃないか?)
サイは現在自分の周りにあるものを確認してみる。
まず今乗っているのは、惑星イクスで「最強」とされている超強力な兵器、ゴーレムトルーパーのドランノーガ。
次に我が身に宿っているのは、戦闘には向かないがそれ以外の分野では大きく活躍できる便利な超能力、「倉庫」の異能。
そして自分のすぐそばにいるのは、前文明の知識を持ち自分にどこまでも尽くしてくれる利口で美人な従者、ホムンクルスのピオン。
そのどれもが使い方次第ではいくらでも金や権力を生み出せる。
力、才能、知識。気がつけば、これからの人生を成功へと導いてくれる要素が全て、サイの手元に揃っていた。
(うん。やっぱり俺って、人生の勝ち組になっているよね。……今更だけど軍に入る意味ってあるのかな?)
ドランノーガの力があればイーノ村を盗賊やモンスターから守るには充分すぎるし、近くの街で傭兵のようなことだってできる。
「倉庫」の異能を使えば運送から土木工事まで働き口なんていくらでも見つかる。
前文明の知識を持っ博識なピオンならサイでは思いつかないドランノーガと「倉庫」の異能の利用法を考えてくれるだろうし、彼が望めば人生の伴侶になってくれるだろう。
サイが軍人を目指したのは、安定した収入を得て家族を楽させたい為と、憧れであるゴーレムトルーパーの近くにいたい為、後は魅力的な異性との出会いを期待した為である。しかしそのほとんどが叶った今、彼の中で軍に入ろうとする意志が薄れつつあった。
「どうかしましたか、マスター?」
そのようなことを考えているといつもの表情に戻ったピオンがサイを見下ろしていた。
「いや、何でもないよ。それで今日の訓練はこれで終わりなのか?」
サイは胸の内に起こった疑問を一旦保留にしてピオンに話しかけると、彼女は首を横に振って答える。
「いえいえ。まだやるべき訓練は沢山ありますよ。次は……」
X X X
サイとピオンがドランノーガの操縦訓練を始める十数時間前。夜の平原をさ迷い行く猪の姿をしたモンスターは、ついに人が大勢住む街を見つけた。
人が住む街は猪の姿をしたモンスターがいる場所よりだいぶ離れているのだが、その尋常ではない嗅覚で人の匂いを嗅ぎ付けたモンスターは街の方へまっすぐと進む。
猪の姿をしたモンスターは知らないことだが、その街には昼間にモンスターの仲間である群れを退治した軍人達とゴーレムトルーパーがいた。しかし昼間の勝利の事もあって、街の人間達は警備役の軍人でさえも大きく気が緩んでいた。
ここに猪の姿をしたモンスターが現れれば、例えモンスターが一匹だけでも街は大きな騒ぎとなるだろう。最悪、街の門を突破されて街に大きな被害が出る事も有り得る。
だが、最後には猪の姿をしたモンスターは軍人達に囲まれて、動きを封じられたところをゴーレムトルーパーの攻撃によって殺されてしまうだろう。そうして街にいくらかの被害を出すが、今度こそ猪の姿をしたモンスター達による脅威は無くなる筈である。
……そう。このままいけばそうなる筈だった。
運命の悪戯というのは、いついかなる時でも、どんな相手にでも起こるものらしい。
人が住む街へと向かう猪の姿をしたモンスターの前を小さな影が横切る。
影の正体は一匹の小さな獣であった。恐らくはモンスターが目指している街からここまで迷い出た小さな害獣。
猪の姿をしたモンスターは「より多くの命を殺す」というモンスターの本能に加えて、ここまで何も食べずに移動していたせいで空腹であったことにより、その小さな獣を追い求めた。モンスターは逃げる小さな獣をすぐに捕まえて一口で食べると、再び人が住む街へと向かう。
……そしてそれから十数時間後、この平原に悪夢のような「災害」が発生した。
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