平原の戦い(2)

 遠距離に対する攻撃手段を持たず突撃することしかできないモンスターの群れに対して、軍人達は弓矢や長銃に大砲を使って遠距離から一方的に攻撃を仕掛けていく。矢と弾丸はモンスターの体を貫き肉をえぐり、砲弾は地面ごとモンスターの体の大部分を吹き飛ばす。


 何も知らない者から見ればそれは「一方的な虐殺」に見えるが、実際にはここまでやってようやく軍人達はモンスターの群れと「互角」であり「足止め」ができている状態なのだ。


 矢と弾丸は確かにモンスターの体を貫いていて、中には眉間に矢が深々と突き刺さっていたり心臓の上に風穴が空いているモンスターもいる。


 砲弾は確かにモンスターの体の大部分を吹き飛ばしていて、中には頭部の半分がなくなっていたり胴体がなくなって頭部だけとなったモンスターもいる。


 だがそれでも、いや、その「程度」ではモンスターの群れは「止まらない」し「死なない」のだ。


 全身を弓矢と長銃で射たれて、例え四肢を撃ち抜かれてもモンスターは止まらず、血塗れの肉塊になっても前に進もうとする。


 大砲の砲弾で体の大部分を、例え首以外の全てを失ってもモンスターは死なず、首だけになっても前に進もうとする。


 モンスターとの戦闘経験がある軍人達に「モンスターで一番恐ろしいところは?」と聞けば、全ての軍人達は「殺しても死なない、いくら傷つけてもすぐに治ってしまう生命力」だと答えるだろう。実際、通常の生物なら即死する攻撃を受けても死なず、頭部の半分が無くなっても断面から肉が盛り上がって元に戻り、四肢が千切れても傷口から新たな四肢が生えてくるモンスターの姿は「恐怖」以外の何物でもない。


 もちろんモンスターも「生物」である以上は殺す事が可能で、傷が再生するよりも先に頭部を完全に破壊すれば死ぬのだが、現在の軍人達の装備ではそれを実行するのは難しかった。弓矢や長銃ではモンスターの体に風穴を開ける事はできても頭部を完全に破壊する威力は無く、大砲は頭部を破壊できる威力はあるものの頭部に狙いをつける事など不可能であった。


 それ故に軍人達にできる事と言えばモンスターの群れの進行速度を遅くする事だけなのだが、それでも軍人達は攻撃の手を休める事はなかった。


 数が減らず止まる事がないモンスターの群れに絶え間無く攻撃を仕掛けている為、矢や弾薬の消費は激しく、それ以上に軍人達の精神的な疲労は大きい。そして軍人達がモンスターの群れに対して攻撃を開始して一時間程経過する頃には矢や弾薬が尽きかけ、軍人達の疲労も限界まできていたのだが、その時になって平原に「戦いを終わらせる存在」が現れた。


「……? ……!」


 最初に気付いたのは大砲隊で大砲に火薬と砲弾を込める役割の一人の軍人だった。


 軍人が疲れ切った表情でふと後方を見た時、後方の大地に小さな影が目に映ってそれが段々と大きくなっていくのに気づくと、その軍人は疲れ切った表情から一転して心から嬉しそうな表情となって仲間達に向かって叫んだ。


「おぉい! 来たぞ! 『援軍』が来てくれたぞぉ!」


『『ーーーーー!?』』


 嬉しそうな表情をした軍人の声に、他の軍人達も嬉しそうな表情となってモンスターの群れへの攻撃を行いながら歓声を上げる。本来であれば連絡以外の戦闘中の私語は諌める指揮官も、その軍人達を責める事はせず、むしろ今出た私語を利用して部下に檄を飛ばす。


「今の話を聞いたか! 我々の勝利は近い! 総員、最後の力を振り絞れ!」


『『っ!』』


 指揮官の号令に軍人達は残っていた矢や弾薬をモンスターの群れに放って足止めに専念する。この時の軍人達の表情は疲労が色濃く出ていたが、それでも「生き残る事ができる」という希望の光が目に宿っていた。


 そうしているうちに平原の戦場に軍人達が待ち望んでいた援軍が、戦いを終わらせる存在が現れた。


 現れたのは、背中に人型の上半身を生やした巨大な鋼鉄の大蛇。


 惑星イクスにおける最強の兵器ゴーレムトルーパー。


 この下半身が大蛇のゴーレムトルーパーは、軍人達が所属している国が保有しているゴーレムトルーパーの一体で、モンスターの群れが確認されたのと同時に出動要請の早馬を出していたのだがどうやら間に合ったようだ。


「よく来てくれた!」


「我らの守護神!」


「勝ったぞ! 俺達は勝ったんだ!」


 自軍のゴーレムトルーパーの到着を歓迎する軍人達。中にはモンスターの群れへの攻撃の手を止めて歓声を上げる軍人も多数いたが、だれもそんな彼らを責めたりしなかった。


 何故なら軍人達はもうすでに勝っていて、これ以上モンスターの群れに攻撃をして足止めをする必要がないのだから。


 軍人達の戦いの勝利条件は、相手がモンスターでも人間同士であっても基本は変わらず、その勝利条件とは「敵を倒す」ことではなく「自軍のゴーレムトルーパーが到着するまで持ち堪える」ことである。


 ゴーレムトルーパーは惑星イクスで最強の兵器で、ゴーレムトルーパーを倒せるのは同じゴーレムトルーパーか伝説に登場する超大型のモンスターくらいだ。その為、軍人達の出番はゴーレムトルーパーが戦場にやって来るまでで、ゴーレムトルーパーが戦場に現れたらそこから先の戦闘は惑星イクス最強の兵器にと任される。


 下半身が大蛇のゴーレムトルーパーが登場すると、モンスターの群れとの戦いはあっさりと終わった。


 猪に似た姿をしたモンスターの群れは、ゴーレムトルーパーが振るう武器によって完全にその体を砕かれ、あるいその巨体によって潰されて数分もしないうちに生きているモンスターはいなくなり、モンスターの血肉は戦場となった平原を赤く染めた。


 軍人達の戦いと比べたらあまりにも短く、命のやり取りといった緊張感が感じられない、戦闘と言うよりは単なる作業のような終わり方。だがそれでも軍人達はモンスターの群れとの戦いが終わり、自分達が生きている事を隣にいる戦友達と共に喜び合う。


 軍人達がゴーレムトルーパーが現れるまで戦線を維持して、ゴーレムトルーパーが戦場にやって来たらその先の戦闘、勝敗の行方は全てゴーレムトルーパーに委ねられる。


 これが現代の惑星イクスでの戦いであった。

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