平原の戦い(1)

 時は少し遡る。


 サイが実家の倉庫の奥で遺跡へと通じる道を見つける少し前、イーノ村から山脈を越えて東へ行った平原に百人以上の男達が集まっていた。男達は全員、弓矢や長銃を持って武装しており、中には騎馬に乗っている者もいれば大砲の手入れをしている者もいる。


 男達はフランメ王国の隣国の軍人達でこの近くにある街の防衛を任務としていた。


 軍人達は緊張した表情で自らの手の内にある武器を握りしめ、陣形を整えて全員同じ方向を見つめている。そして軍人達が見つめている方向の遥か向こうで砂ぼこりが微かに起こった気がした時、軍人達の指揮官らしき男が大声をあげた。


「来たぞ! 『モンスター』だ!」


『『………!』』


 指揮官の言葉に軍人達の緊張が一層強まり、同時に「それ」が遥か向こうより現れた。


「それ」は一見すると爆走する五十匹くらいの猪の群れであった。


 しかし猪一匹の大きさは通常の猪の五倍はあり、両目にあるのは真紅の色をした昆虫のような複眼、口元は大きく裂けていて肉食の獣のような鋭い牙が並んでいた。


 モンスター。


 前文明が崩壊するきっかけとなり、今では惑星イクスの大陸の半分を支配している人類の宿敵。


 モンスターと一言に言ってもモンスターには色々な種類があり、野生の獣によく似た姿のモンスターもいれば全く未知の姿をしたモンスターもおり、単独で行動するモンスターもいれば群れを成して行動するモンスターもいる。そして今回現れたのはあの猪によく似たモンスターの群れで、モンスターの群れが街に接近してくるという報せを受けた軍人達は、こうしてモンスターの群れの進行上にある街から離れたこの平原で迎え撃とうとしていた。


「大砲隊! 発射用意!」


 指揮官の指示により数人の軍人達が平原に運んできた三門の大砲を人力で起こして角度をつけ、火薬と砲弾を込める。準備が整い大砲がいつでも撃てるのを確認した指揮官は、視線をこちらに向かってくるモンスターの群れに戻し、モンスターの群れが大砲の有効射程距離までやって来たところで号令を飛ばす。


「……撃てぇ!」


『………!』


 指揮官の号令により三門の大砲から砲弾が放たれ、砲弾はモンスターの群れに命中して命中箇所に砂と土、そしてモンスターの血と肉が混ざった爆風が起こる。しかし指揮官はそれを確認する事なく次の指示を部下に出し、それから間も無く大砲の砲撃で起きた砂煙からモンスターの群れが這い出てくる。


「弓矢隊! 長銃隊! 射撃開始! 騎馬隊は側面に回り込め! 大砲隊は次弾の装填を急げ!」


 指示を受けて弓矢、あるいは長銃を持つ軍人達はモンスターの群れにと矢と弾丸を放ち、騎馬に乗った軍人達はモンスターの群れの側面に向かって騎馬を走らせる。


 軍人達の戦いは、相手がモンスターでも人間同士であっても基本は変わらない。まず大砲部隊が遠距離からの砲撃で敵の攻勢を崩し、その後で連射性能に優れた弓矢部隊と連射は出来ないが威力に優れた長銃部隊が攻撃を仕掛け、騎馬部隊は機動力を活かして側面や後方から攻撃して敵を撹乱、敵が少数であれば正面から一気に敵陣を突破するというものである。


 もちろんこれは充分に兵士や武器などの準備を整えて初めて出来る「理想」の戦い方であるが、今回の場合はモンスターの群れの発見情報が早かった為に準備を整える事が出来た。しかしいくら理想的な状態で戦いを始める事が出来たとはいえ、モンスターの群れを相手に油断する事は決して出来なかった。


「攻撃の手を緩めるな! あいつらは痛みなど感じないぞ!」


 指揮官が部下に檄を飛ばす。そして指揮官の言葉を肯定するかのように、猪に似た姿をしたモンスターの群れは大砲の砲撃で吹き飛ばされても、矢や弾丸をどれだけその身に受けても、死や痛みを恐れる様子もなく突撃を続ける。


 そんなモンスターの群れを前に、軍人達は必死な表情で弓矢に長銃、大砲を放って戦う。


 全てはこの戦いに勝つ為に。勝って自分達の後ろにある街の人々と、自分達の命を守る為に。


 軍人達とモンスターの群れの戦いはまだ始まったばかり。

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