ドランノーガ
「ピオン!? お前、何ふざけた事を言っているんだよ!?」
「失礼な! 私はふざけてなんていません! マスターの異能、異空間創操能力は前文明でも発現する人が滅多にいなかった、それこそ一億人に一人しか現れなかった激レアの異能なんですよ!? 生物以外ならほぼ無限に収納できて、しかも収納している間は時間が止まっているので時間経過による変化や劣化もナシ! 異空間創操能力の使い手が一人いるだけで運送業界に軽い革命だって起こせるんですよ! これ程の異能を後世に残さないでどうするんですか! さあ、分かったら私と子供を作りましょう、マスター! さあ!」
思わず大声を出してピオンを止めようとするサイだったが、ホムンクルスの少女はそれ以上の大声で「倉庫」の異能がいかに貴重かを語り、止まるどころか猛烈な勢いで迫ってくる。
「ちょっ!? ピオン、待てって!」
「待ちません!」
貴重な異能を確実に残すのが女性型ホムンクルスの役目。
ピオンがサイに言った言葉は嘘ではなかったらしく、ホムンクルスの少女は自分の役目の一つ、貴重な異能である異空間創操能力こと「倉庫」の異能の使い手である青年を目の当たりにすると、まるで恋する少女の顔(ただし目は獲物を見つけた獣)となって彼を抱きついて押し倒した。
ピオンのような美少女に抱きつかれて嬉しくないはずないのだが、そのあまりにも熱烈すぎるピオンの求愛行動に、サイは捕食者を前にしたような本能的な恐怖感を感じるのだった。
「……! そ、そうだ! ピオン! お前、ゴーレムトルーパーで何かをするんじゃなかったのか!?」
「え? ……あ」
サイが苦し紛れに言った一言にピオンはつい先程自分が何かをしようとしていたのを思い出し動きを止める。その隙を逃さずサイはホムンクルスの少女から逃れると「倉庫」の異能を使い、異空間に収納していたゴーレムトルーパーを呼び出した。
「ほら、やる事があるなら早くやろう? それで俺の家で夕食を食べよう。腹が減っているんだろ?」
「…………………………そうですね」
何やら誤魔化された気がするピオンだが、それでもやる事があったのと空腹なのは事実な為、サイの言葉に従う事にした。
「ふぅ……。それで? 俺に一体何をさせるつもりだったんだ?」
「マスターにはこのゴーレムトルーパーに名前をつけてほしいのです」
「名前?」
「ええ、そうです」
疑問の声をあげるサイにピオンは一つ頷いて答える。
「全てのゴーレムトルーパーにはそれぞれ個別の名前があって、熟練した操縦士であれば個別の名前を呼ぶだけでゴーレムトルーパーを呼び出したり、簡単な動作をさせたりできます。ですからゴーレムトルーパーにとって名前をつけることはとても大切なことなのです。……それにいつまでも『ゴーレムトルーパー』ではこの子も可哀想じゃないですか?」
ピオンは「この子」と言った辺りでゴーレムトルーパーの巨体を愛でるような目で見上げる。一度自らゴーレムトルーパーに吸収されて専用オペレーターとなった彼女にとって、このゴーレムトルーパーは半身と言っても過言ではなく、思い入れも強くなっていた。
「それもそうか……」
そしてサイもピオンの言葉には同感だった。
自分の血を分けて生まれた、自分だけの愛機とも言えるゴーレムトルーパーなのに呼び名の一つもないのは確かに寂しい。そう思ったサイはできるだけ勇ましい名前をつけてやろうとゴーレムトルーパーを見上げた。
しばらくの間、サイは無言でゴーレムトルーパーの巨体を観察した後、やがて一つの名前を口にした。
「『ドランノーガ』……っていうのはどうかな? 結構強そうじゃないか?」
サイが命名したゴーレムトルーパーの名前にピオンが首を傾げる。
「ドランノーガ、ですか? ドランノーガの『ドラン』は下半身の竜を意味しているのが分かりますが『ノーガ』はどういう意味なんです?」
「別に大した意味なんてないけどほら、下半身の竜の角と前脚、それと上半身の人型の両腕、あれを見ていたら思いついたんだ」
ピオンはサイに言われてゴーレムトルーパーの下半身の竜の角と両腕部を見て、次続けて上半身の人型の両腕を見ると、自分の主人である青年の言葉がなんとなく理解できて頷く。
「……ああ! 成る程、そういう事ですか。はい。私もいいと思いますよ、ドランノーガという名前で」
「決まりだな。……それじゃあ、これからよろしく頼むな、ドランノーガ」
サイは自分の愛機であるゴーレムトルーパー、ドランノーガを呼びかけた。
そしてこれから先、ドランノーガはサイと共にいくつもの戦場を駆け抜けて多大な戦果を挙げ、後の世に「業火の竜騎士」、「万物を灰にする悪竜」といった異名を持つ英雄が乗った伝説のゴーレムトルーパーとして語り継がれる事になるのだが、それはまだ先の話……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます