驚くピオンにサイ

「俺が生きている限り例え自分が死んでも生まれ変わって側に仕えてくれる。……なんというか凄い話だな」


 ピオンの説明にサイは思わずといった風に呟いた。その顔にはピオンが勝手に取った行動に対する怒りはすでに無く、ただ話の大きさに困惑している表情があった。


「迷惑でしたか、マスター?」


「え? ……いや、迷惑なんかじゃないよ。ただ話の大きさに驚いただけだ。正直、ピオンがずっと側にいてくれるなら俺も助かる。こちらこそ改めてこれからよろしく頼む」


「はい♪」


 そう言ってサイが手を差し出すとピオンは笑顔で手を取って立ち上がる。立ち上がったホムンクルスの少女は、次に自分と自分の主人である青年がすべき事を口にする。ゴーレムトルーパーの操縦士と専用オペレーターにはまだまだやる事があるのである。


「それではマスター。次にやる事なんですが……」


「次? まだ何かやる事があるのか?」


「当然です。マスターにはまだやってもらわないといけない事が沢山……」


 首を傾げるサイにピオンは何かを言おうとするがその言葉は途中で途切れて、代わりに彼女の腹部から空腹を訴える音が聞こえてきた。


「~~~!」


 恥ずかしそうに今も空腹を訴える音を出す腹部を両手で抱えるように隠すピオン。その様子を見てサイが苦笑を浮かべると、彼女は顔を赤くして言い訳でもするかのように口を開く。


「し、仕方がないじゃないですか。私、保存カプセルから解放されてからまだエネルギー補給をしていないんですから。ホムンクルスは人間以上の身体能力と情報処理能力を持っていますが、それを満足に発揮するには多くのエネルギーが必要なんですよ。更に言えば身体能力と情報処理能力が優秀なホムンクルスは、優秀なだけ必要なエネルギーが多くて、私は特に優秀なホムンクルスだから、その……」


「……なるほど」


 最初は早口で言っていたピオンであったが最後あたりで恥ずかしさが勝って言葉が途切れてしまう。だがサイは彼女の事情を大体だが理解した。


 要するにホムンクルスは人間より遥かに身体能力が高くて頭も良いのだが、その代わりに多くのエネルギー、つまり食事を必要としている。そしてそのホムンクルスの中でも特に優秀なホムンクルスであるピオンは、他のホムンクルスよりも多くの食事が必要であるということだ。


 ピオンの事情を理解したサイは自分も空腹になっている事に気付く。


 考えてみればこの遺跡に繋がっている倉庫に入ったのが正午を少し回ったくらい。それから大分時間が経っているので、外では既に陽が落ちているだろう。


「なぁ、ピオン? 何をするつもりかは分からないけど、それは明日にして俺の家で夕食でも食べないか?」


「………そうですね。マスターの指示に従います。でもせめてその前にこのゴーレムトルーパーの……はっ!?」


 サイの提案に渋々と従おうとするピオンであったが、突然大きな見落としに気付いてしまったような焦った表情を浮かべた。


「? どうした、ピオン?」


「……ど、どうしましょう。私、このゴーレムトルーパーの外に出す方法を考えていませんでした」


 ホムンクルスの少女は顔を青くして自らの失敗を告白する。


「ああ~……私の馬鹿! 普通は施設の外でゴーレムオーブをゴーレムトルーパーにしてもらうのに、マスターに操縦士になってもらいたいと焦りすぎてこんなミスをするなんて……! ゴーレムトルーパーの力なら施設を壊して無理矢理外に出れますけど、そんな事をしたらせっかく秘密にしていたこの施設が外にバレる恐れも……」


「何だ。そんな事か」


 頭を抱えて悩むピオンにサイは何でもないように声をかける。


「………え? マスター? 今何て?」


「そんな事、何でもないって言ったんだよ。……ほら」


 サイはピオンに答えるとゴーレムトルーパーの足元まで歩き、脚部の装甲に触れると異能を発動させた。すると次の瞬間、ゴーレムトルーパーの巨体は「倉庫」の異能によって創り出された異空間に収納されてこの世界から消えてしまった。


「……………はい?」


「へぇ、ピオンもそんな顔をするんだな?」


 突然ゴーレムトルーパーが消えてしまった光景にピオンは驚きのあまり目を見開き、それを見て今まで彼女に散々驚かされてきたサイが自慢気に笑いながら説明をする。


「俺はな、生物以外を異空間に自由に出し入れする『倉庫』の異能が使えるんだよ。それで今のはゴーレムトルーパーを異空間に収納したってわけ」


「『倉庫』の異能……? それってまさか異空間創操能力? ………」


 サイから異能の内容を聞いたピオンは呆けた表情で呟くと、その表情のままゆっくりと彼の元に近づいていく。


「ピオン?」


「マスター! 私と子供を作りましょう! 今! ここで!」


「はぁあっ!?」


 ピオンはサイの手を力強く握り締めると、この広間に響き渡るような大声でとんでもないことを叫び、これにはサイも驚いた顔となった。

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