自己進化機能
「……………」
ゴーレムトルーパーの操縦席から飛び降りてきたピオンを受け止めたサイは、最初こそ驚いた顔をしていたが、冷静さを取り戻すとやがてジト目となって腕の中のホムンクルスの少女を無言で見つめた。
「あ、あれ? マスター、どうかしましたか?」
「………」
サイの様子がおかしいことに気付いたピオンが話しかけるが青年は答えない。
死んだと思っていたのに生きていたことを喜びたい気持ちはある。何でゴーレムトルーパーを動かして自分から死ぬ様な真似をしたのか聞きたい気持ちもある。
だが喜ぶよりも、理由を聞くよりも、まずやらなくてならないことがある。
まずは説教だ。
サイは自分の腕の中にいるピオンを床に降ろして立たせると、先程彼女が脱ぎ捨てたシャツを手渡して小さく呟いた。
「それを着て正座」
「はい? マスター、今何て……?」
「それを着て正座」
聞き返すピオンにサイはもう一度短く告げる。ホムンクルスの少女は自分の主人である青年の目を見て彼が怒っていることに理解すると、手渡されたシャツを着てからその場に正座をした。
「これでよろしいでしょうか、マスター?」
「ああ」
正座をしてこちらを見上げてくるピオンにサイは腕組みをして短く答える。
この時のサイとピオンの姿は「裸に近い格好で正座をしている少女を腕組みをして見下ろしている青年」という色々と危ない絵面なのだが、今のサイはその様なことは全く気にしてはいなかった。
「……ピオン、俺がなんで怒っているか分かるか?」
「ええっと、それは……」
サイの言葉にピオンは何かを言おうとするが、彼女は自分の主人である青年が何故怒っているのかを本気で分かっていないらしく言葉が続かず困った顔をする。それから少しの間、仏頂面の青年と困ったような愛想笑いを浮かべる少女が無言で見つめ合い、やがて仏頂面の青年、サイが口を開いた。
「お前は俺の為に行動してくれているのは分かっている……つもりだ。ゴーレムトルーパーが勝手に動くようにしたのも俺の為、なんだろ? ……でもな? だからと言って自分で自分を殺すような真似なんてするなよ」
「ああ、その事で怒っていたのですね? あれは……!?」
「……!」
サイの言葉にピオンはどうして彼が怒っているかその理由を理解して説明をしようとするが、その前に青年は床を強く踏み鳴らしてホムンクルスの少女の言葉を遮る。
「二度とするな。いいな?」
「……はい」
ピオンはサイが本気で自分のことを心配して怒っているのだと理解すると正座の体勢のまま頭を下げる。その姿を見て彼女が反省していると分かると、サイは一つ息を吐いて気持ちを落ち着かせてピオンに尋ねる。
「それで? 何であんな事をしたんだ? というかお前、ゴーレムトルーパーに食べられて死んだ筈なのに何で生きているんだ?」
「……はい。まず最初に、私がゴーレムトルーパーに遺跡や私を食べるように命令したのは、マスターの補助をより完全なものにする為です」
サイの予想通り、ゴーレムトルーパーが独りでに動き出したのはやはりピオンの仕業のようで、先程怒られたせいか落ち込んだ表情のホムンクルスの少女は、ゆっくりとそのようなことをしたの理解を説明する。
「俺の補助をより完全に?」
「はい。私も出来る限りマスターの側について補助をするつもりですが、何かの事故で機能停止になる事もあり得ます。その時の事を考えてゴーレムトルーパーに私のバックアップを作り出す機能を加えようと思いました」
「バックアップ? 何だそれ? ゴーレムトルーパーに機能を加える?」
ピオンの説明をあまり理解できていないサイにホムンクルスの少女は詳しく説明する。
「ゴーレムトルーパーには『自己進化機能』という機能があって、これは時間をかけて成長させるか他の機械などを吸収させる事で機体の形を変えたり、新しい機能を加える機能です。機械を吸収させた時は進化がすぐに始まり、吸収させた機械に応じた機能が加えられます。……ここまでは大丈夫ですか、マスター?」
「……一応大丈夫だと思う」
正直、ピオンの話は難しくてあまり飲み込めないのだが、それでもサイは何とか理解しようとしながら返事をする。そんな青年の顔を見てホムンクルスの少女は笑顔を浮かべて説明を続ける。
「私はまずゴーレムトルーパーにマスターと初めて出会った部屋の機材を吸収させて『ホムンクルスを製造させる機能』を加えました。そして次に私自身を吸収させることで私をゴーレムトルーパー専用のオペレーターに登録させて、機能停止となれば次の『私』が製造をするようにしたのです」
ピオンの話を聞いたサイは先程ゴーレムトルーパーが破壊した遺跡の壁を見る。言われてみればあの辺りは確かにこのホムンクルスの少女と初めて出会った部屋で、彼女を製造して今まで保存していたカプセルがあった。
「え~と……つまり? ピオンが自分をゴーレムトルーパーに食べさせたのはゴーレムトルーパーの一部になる為で、今のピオンはもし死んだとしても新しいピオンがゴーレムトルーパーから作られて生まれ変わる。……そんなところか?」
これまでの説明を必死に噛み砕いてまとめてみたサイの言葉にピオンは満面の笑みで頷いた。
「はい♪ その通りです、マスター。ゴーレムトルーパーと操縦師の関係は操縦士が死ぬまで途切れません。つまりゴーレムトルーパーの一部となった私はマスターが死ぬまで側にお使えできます。改めましてこれからよろしくお願いしますね、マスター」
ピオンはそう言うとサイに向かって深々と頭を下げるのだった。
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