復活?

「…………………………は?」


 サイは一瞬、自分が見た事が信じられず、十秒くらい沈黙した後で呆けた声を漏らす事しかできなかった。


 ピオンに指示に従ってゴーレムトルーパーの操縦士の登録をしてそれが終わったら、急にゴーレムトルーパーが独りでに動き出して遺跡を壊してはじめて、次にホムンクルスの少女を一口で呑み込んだ。


 頭では今起こった出来事を認識できているのだが、それを受け入れる事ができなかった。


「ピ、ピオン?」


 先程までピオンがいた場所には彼女の姿はなく、彼女ごとゴーレムトルーパーに呑み込まれた床の削られた跡があるだけ。床の削られた跡を震える指先で触れてサイの中でようやくピオンがここにはいない……ゴーレムトルーパーに殺されてしまったのだという実感が沸いてきた。


「………! お、お前! なんて事をしてくれたんだ!?」


 ゴーレムトルーパーに向かって怒声を投げつけるサイ。しかし当然というかゴーレムトルーパーは怒声に反応せず、ただその場に立って虚空を見つめるだけであった。


「……………!」


 サイは無言でゴーレムトルーパーの脚部まで駆け寄ると脚部の装甲を何度も殴りつける。


 本当は分かっている。ゴーレムトルーパーが独りでに動き出したのも、遺跡を壊し出したのも、そしてピオンを呑み込んだのも、全てはピオン自身が仕組んだものだと分かっている。


 それでもサイはゴーレムトルーパーを殴らずにはいられなかった。ピオンを失った悲しみと理不尽を、例え命じられただけとはいえ実行した目の前の鋼鉄の巨像にぶつける事を止められなかった。


 サイが拳を叩きつける度にゴーレムトルーパーの脚部から「金属同士が激しくぶつかり合うような音」が響き渡り、装甲の「拳を当てた箇所がへこむ」のだが、どうやらゴーレムトルーパーには自動で損傷を修理する機能があるようで、装甲のへこんだ箇所は数秒で元に戻っていく。


「はぁ……! はぁ……!」


 ゴーレムトルーパーの脚部に数十発の拳を叩き込みようやく気が済んだ……訳ではないが若干落ち着きを取り戻したサイは荒い息を吐きながらゴーレムトルーパーを見上げる。するとゴーレムトルーパーの巨体が光を放っている事に気付いた。


「ゴーレムトルーパーが、光っている?」


 一体いつから光っていたのだろうか? 感情のままに拳を振るっていたサイは今までゴーレムトルーパーが光を放っていた事に気付いておらず、呆然としているとゴーレムトルーパーの一部が変形していくのが分かった。


 変形しているのはゴーレムトルーパーの下半身の竜の腰の上辺り、上半身の人型の背後の箇所。そこがまるで粘土のように形を変えながら盛り上がり、丸みを帯びた箱の様なものができるとゴーレムトルーパーから放たれる光が収まった。


「……形が少し変わった? 何でいきなり……!?」


『………!』


「ああ、もう! 今度は何なんだよ!?」


 光が収まったと思ったら次はゴーレムトルーパーの前方、操縦席の辺りから何かの駆動音が聞こえてきた。次から次へと起こる事態にサイはやけくそ気味に叫ぶと操縦席の前に駆け寄った。


 ゴーレムトルーパーは立った状態で停止していて、サイが操縦席を見上げると例の駆動音はやはり操縦席から聞こえてきていた。現在装甲で入口が閉じられている操縦席は、装甲と装甲の隙間から光が漏れているのが見えた。


「……本当に、今度は何なんだよ?」


 もう驚く気力もないのか操縦席を見上げながらサイは小さく呟いた。そしてそれからしばらくすると、やがて駆動音が止み、装甲と装甲の隙間から見えていた光も収まり、装甲が展開して操縦席が現れる。


 ゴーレムトルーパーの操縦席には誰も乗っていないはずであったが、そこからは一人の人影が姿を見せた。それはサイがよく知る姿であった。


「………!? ピ、ピオン!」


「はい♪ そうですよ、マスター♪」


 ゴーレムトルーパーの操縦席から姿を現したのは、先程ゴーレムトルーパーに一呑みににされて死んだはずのホムンクルスの少女ピオンであった。


「な、何で? お前、さっき死んだはずじゃ……?」


「ええ、分かっています。その説明もしますから今からそちらに行きますね」


「え? 今からこっちに行くって?」


 混乱するサイにピオンは相変わらずに態度で答えると、そのまま操縦席から飛び降りて自分の主人である青年めがけて落ちて行く。ちなみにこの時のピオンは相変わらず裸のままで、飛び降りた時に色々見えた気がしたが、残念ながらそれを気にする余裕は今のサイにはなかった。


「おい!?」


「きゃー♪ 受け止めて下さ〜い♪」


「うおわっ!?」


 呑気な声を出しながら落ちてくるピオンをサイは何とか受け止める。その際に全身で感じた彼女の柔らかな感触に温かな体温、心臓の鼓動は確かに生きている生者のものであった。

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