暴走?

 いよいよゴーレムトルーパーに乗れると機体で胸を膨らませるサイに、ピオンはまず最初にするべきことを言う。


「それではマスターにはこれからあることをしてもらいます」


「あること?」


 ピオンの言葉にサイが聞き返すとホムンクルスの少女は頷いた。


「はい。実はこのゴーレムトルーパーはまだ完全にマスターのものになっていないのです。ゴーレムトルーパーは最初に乗った人間を自身の操縦士として登録し、それからは操縦士と操縦士が許可を出した人間しか操縦できなくなります。ですのでまずマスターにはゴーレムトルーパーの操縦士登録をしてもらいます。……コックピット解放!」


『………!』


 サイに説明をしたピオンは視線をゴーレムトルーパーに移して命令をした。するとホムンクルスの少女の命令に従って、ゴーレムトルーパーの下半身にあたる竜がうつ伏せの体勢となり、続いて胸部で展開して人が入れそうな空間が現れた。


「あれがゴーレムトルーパーの操縦席?」


「そうですよ。ではマスター、早速中に入りましょう♪」


「お、おい!? 分かったから引っ張るなって!」


 ゴーレムトルーパーの竜の胸部が展開して現れた操縦席を見てサイが呟くと、ピオンが青年の腕に抱きついて操縦席へと連れていこうとする。ちなみにこの時、腕全体からホムンクルスの少女の柔らかな体の感触が伝わってきて、サイは自分の心臓の鼓動が早くなり、同時に今までにかなり削られた精神力やら理性とかが更に削られていくのを感じた。


 ゴーレムトルーパーの操縦席は無理をすれば人が二、三人くらい入れそうな広さで、中には操縦士が座るのだと思われる金属製の椅子が一席あるだけであった。


「さあ、マスター。この椅子に腰掛けてください。それで操縦席登録は完了します」


「それだけなのか?」


「はい。椅子に座って背もたれに背中を預ければすぐです」


「分かった」


 ピオンの言う通りにサイは椅子に座って背もたれに背中を預けた。しかし次の瞬間。


「痛っ!?」


 椅子に座って背もたれに背中を預けたサイは、次の瞬間首の後ろ側に痛みを感じて、弾かれたように椅子から立ち上がる。見れば椅子の背もたれの丁度首が当たる所に小さな針が生えており、針の先端には血がついていた。


「は、針? こんなところに針なんてあった……え?」


 サイが見ている中で椅子に生えていた針は徐々に小さくなっていきやがてなくなった。その様子を驚いた顔で見ている青年にピオンが嬉しそうな声で話しかける。


「お疲れ様でした、マスター。これで操縦士の登録は完了です♪」


「ピオン。お前、あの針の事を知っていたのか? 知っていたのだったら教えてくれて、も……あれ? 何だ? 急に、体が……?」


 ピオンに一言文句を言おうとしたサイだったが、突然立ち眩みに似た感覚に襲われる。ホムンクルスの少女はその様子を見て嬉しそうな表情を浮かべながら青年の体を支える。


「大丈夫ですよ、マスター。すぐに元に戻りますからね。それでは次に……」


 サイの体を支えながらピオンは右手で操縦席の椅子に触れると目を閉じて意識を集中する。


「ピオン?」


「……お待たせしました、マスター。とりあえず外へ出ましょうか?」


 ピオンはサイを支えながら操縦席から外へ出て、ゴーレムトルーパーからある程度離れると自分の主人である青年に話しかける。


「マスター。これからこのゴーレムトルーパーが動きますけど、それは決して暴走ではありませんからあまり驚かないでくださいね?」


「ゴーレムトルーパーが動く?」


『………!』


 サイがピオンの言葉に首を傾げると、まるでそれを合図にしたかのようにゴーレムトルーパーが動き始め、ゴーレムトルーパーの下半身にあたる竜が遺跡の壁を破壊しだした。


「な、何をやっているんだ……!?」


「……」


「って!? お前、いきなり何を!?」


 遺跡の壁を破壊してその向こうに下半身の竜の頭部を突っ込ませているゴーレムトルーパーにサイが呆然としていると、ピオンはいきなりシャツを脱ぎ捨てて裸となり、驚きの表情を浮かべている自分の主人である青年から離れてゴーレムトルーパーへと向かって歩いていく。


「おい、ピオン? 今度は何をする気だ? そっちに行くと危ないぞ!」


 サイが呼び止めるとピオンは歩くのを止めて青年の方へ振り向き、笑顔のまま頭を下げて礼をした。


「……ピオン?」


「マスター。少しの間お別れです」


 ピオンが礼をして別れを告げた次の瞬間、ゴーレムトルーパーの下半身にあたる竜が、ホムンクルスの少女を一口で呑み込んだ。

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