ホムンクルスの役目

「あのー? マスター?」


 サイが体のいろんなところを揺らしながら喜んでいるピオンの姿に見とれていると(鼻の下を伸ばしているとも言う)落ち着きを取り戻したホムンクルスの少女が自分を見上げているのに気づいた。


「はっ!? ど、どうした? ピオン?」


 声をかけられて正気に帰ったサイは何でもないように装って返事をするが、彼がピオンの体に夢中になっていたのはバレバレで、ホムンクルスの少女はそんな自らの主人の態度に満面の笑みを浮かべる。


「ふふっ♪ マスター? そんなに私の体が気になるのでしたら、実際に『味わって』みますか?」


「あ、味わう? 味わうって何を……って!? ピオン!?」


 サイがピオンの言葉の意味を確認しようとした時、ホムンクルスの少女は満面の笑みをどこか妖艶なものに変えて自分の主人である青年に近づく。


「ピ、ピオン……?」


 突然のピオンの行動にサイが驚いていると、ホムンクルスの少女はサイの両手を捕まえて握りしめる。


(な、何だ? ピオン、物凄く力が強くないか?)


 思わずピオンの手を振りほどこうとしたサイだったが、ホムンクルスの少女の手にかけられた力は予想よりも遥かに強くてびくともしなかった。


「さぁ、どうぞ♪」


「……!?」


 ピオンは甘い声で囁くと強引にサイの両手を自分の乳房に当てる。


「ああ……♪ マスターの手が私の胸に当たってます……」


「お、おい!?」


「ひゃん!? マ、マスター、もっと優しく!」


 突然の出来事にサイが半ば混乱して両手を動かすと、掌と指の動きに乳房を刺激されたピオンが小さい悲鳴を上げる。


 両手から伝わってくるピオンの乳房の柔らかな感触にサイの中で強い情欲が沸き上がってくるのだが、それと同時に自分の意思を無視して行為を進めようとするピオンへの怒りも確かに芽生えていた。


「ピオン、いい加減にしろ!」


「っ! ……分かりました。そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」


 気がつけばサイは怒りの声を上げて、それに対してピオンはしぶしぶとサイの両手を解放した。


「この体の『最後』の記念にマスターにご奉仕しようと思いましたのに……」


「最後? それよりピオン、ご奉仕ってお前……ホムンクルスって、その……『できる』のか?」


 何やら気になる言葉が聞こえた気がしたが、それより気になることがあったサイはピオンに質問する。彼が聞いた「できる」とはつまり男と女が肌を重ね合わせる行為の事で、その質問に対してホムンクルスの少女は「何を当たり前なことを?」と言いたげな表情で答える。


「もちろんできますよ? 私達ホムンクルスの体は人間とほとんど同じ作りですから、人間とエッチをしてその人間の子供を作ることができます。というか、それが私達ホムンクルスの役目の一つなのです」


「………ナヌ?」


 思いがけない言葉に呆けた声を漏らすサイだが、ピオンはそれに構うことなく説明を続ける。


「私のような女性型ホムンクルスは子宮を操作する事で妊娠のタイミングを決定する事ができますし、産まれてくる子供の性別を決めたり親の異能を受け継がせる事もできます。そうする事で有力者の跡継ぎや貴重な異能を確実に残すのが女性型ホムンクルスの役目なのです」


「な、なるほど」


 ピオンの説明にサイは思わず頷いた。


 確かに古来から王家や貴族を始めとする有力者達の跡継ぎ問題は切実な問題だし、強力な異能を確実に次代に残す研究は各国でも行われている。そういった問題に頭を悩ませている者にとっては、ピオンのような女性型ホムンクルスは正に救いの神……いや、救いの女神と言えるだろう。


「そうか、勉強になったよ。……でも今はそういうのはいいからな」


「はい♪ 分かりました、マスター♪」


 本当は凄く興味があるし、先程の拒絶を撤回したい気持ちでいっぱいのサイであるが、それでも一度断ってしまった手前なので理性を総動員して未練がないように振る舞う。しかしやっぱりピオンはお見通しのようで、大人しく引き下がったもののその顔には笑みを浮かべていた。


「そ、それより早くゴーレムトルーパーの乗り方を教えてくれ」


 笑みを浮かべるピオンの顔を直視できなかったサイは、視線を横にそらして話題を変えるかのようにゴーレムトルーパーの乗り方を聞く。ホムンクルスの少女は笑みを浮かべたまま顔を縦に振った。


「はい。もちろんお教えします。それも私の役目の一つですからね」

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