道具としての本能

「これが……俺のゴーレムトルーパー?」


「はい。その通りです。おめでとうございます、マスター」


 ゴーレムトルーパーを見上げるサイにピオンが祝いの言葉を言う。


 ピオンが祝っているのはサイが自分だけのゴーレムトルーパーを作り出した事だろう。その祝いの言葉はとても嬉しそうな声音で、聞くだけで彼女が心から、それこそ自分の事のように喜んでいるのが理解できた。


 正直ピオンのような美少女に祝ってもらえるのは嬉しいし、「自分だけのゴーレムトルーパーを手に入れる」という願望が叶ったのも嬉しくないと言えば嘘になる。しかしそれでもサイは素直に喜ぶ事ができなかった。


「……それで? ピオン、どうしてお前はこんなことをしたんだ?」


 サイはピオンの方に振り向くと彼女の目を見ながら質問する。


 生鉄の樹からゴーレムオーブを手に入れた時、すでにサイの中ではゴーレムオーブを王家か軍に献上して財に変える考えが固まっていた。それを知っていながらサイにゴーレムオーブを使わせてゴーレムトルーパーを作り出させたピオンの行動はある意味裏切りと言えた。


「………」


 自身の主人である視線を受けたピオンは、嬉しそうな表情から一変して真剣な表情になると、まず床に正座をすると次に両手と額を床につけて土下座の体勢になった。サイはそんな彼女の突然の行動に、思わず怒りを忘れて驚くのだった。


「ピ、ピオン?」


「まずは謝罪をさせてください。先程も申しましたが、マスターのご意志を無視してゴーレムオーブを使ってしまった事、まことに申し訳ありませんでした」


 土下座をしながら謝罪をするピオンの姿に、サイの中で彼女の行動に対する怒りが薄れ、代わりに困惑を覚えるようになった。


「え~と……。謝るのはいいから、そろそろあんな真似をした理由を教えてくれないか?」


「……はい。私があの様な真似をしたのは全て、私が製造された理由を実行するためです」


 サイがもう一度、自分にゴーレムオーブを使わせた理由を聞くとピオンは顔を上げて答える。


「ピオンが製造された理由?」


「そうです。私がある目的の為に調整された特別製のホムンクルスであることは言いましたよね?」


「……そういえばそんな事も言っていたな」


 ピオンに聞かれてサイはここに来るまでの彼女との会話を思い出した。


「その目的とはゴーレムトルーパーを操る操縦士の方の操縦や戦闘を補助すること。元々この施設はゴーレムトルーパーの戦闘をより効率よくするための新戦術や戦闘の補助をする『道具』を開発するための研究施設なのです。そして私もまたその『道具』の一つ」


「……だからピオンとマスター登録をした俺にゴーレムオーブを使わせてゴーレムトルーパーの操縦士にしようとしたって訳か」


「はい」


 ピオンの説明を聞いてようやく彼女の行動の理由が分かってきたサイが確認をするとホムンクルスの少女が頷く。


「マスターが何気なく呟いた『ゴーレムトルーパーに乗ってみたい』という言葉……。それを聞いた瞬間、マスターと共にゴーレムトルーパーに乗る光景が頭の中に浮かび、それがとても素晴らしく幸せなものだと思い、気がつけばその光景を実現するために動いていました」


 ホムンクルスは製造される時に「主人の為に尽くすことが最大の喜びである」という考えを、本能とも言える心の奥底に刻み込まれる。それに加えてピオンは「主人であるサイとゴーレムトルーパーに乗り、共に戦うことが最高の幸せである」という考えを刻み込まれていて、そんな「道具」としての本能がサイの言葉によって発動してしまったのだ。


「……なるほどな」


「………」


 事情を全て聞いたサイがピオンを見ると、ホムンクルスの少女は不安そうな顔で自らの主人を見上げていた。これから自分が罰せられる、最悪捨てられる未来を想像してそれを恐れているのだろう。


 しかしサイはピオンを罰する気などなかった。


(ピオンの行動は言ってみたら本能が暴走したもので、暴走の原因は俺が『ゴーレムトルーパーに乗ってみたい』なんて不用意に言ったせいなんだよな……。それでピオンを責める訳にはいかないか)


 悪いのは不用意な発言をした自分であると結論を出したサイは「ゴーレムトルーパーに乗るという子供の頃からの夢が叶った」と考えを変えることにした。


「分かった。……じゃあ、ピオン? このゴーレムトルーパーの乗り方を教えてくれないか?」


「っ!? マスター、それって……!」


 主人の言葉に目を見開いて立ち上がったピオンにサイは頷いてみせる。


「ああ。ゴーレムオーブを王家や軍に献上できなかったのは残念だけど、考えてみたら自分だけのゴーレムトルーパーなんていくらお金を積んでも買えるものじゃないからね。だから俺はこのゴーレムトルーパーに乗るよ。ピオンは操縦士の補助をするホムンクルスなんだろ? だったら操縦の仕方とかも知っているよな?」


「はい! はい! お任せください!」


 ゴーレムトルーパーに乗ることを決めたサイの言葉に、ピオンは安堵と喜びのあまり目尻に涙を浮かべ頬を赤くした笑顔となって何度も勢いよく頷いた。その笑顔は今日見てきた中で一番綺麗なものであった。


「ええ、お任せくださいマスター! 私の中には全てのゴーレムトルーパー共通の基本動作から超高難度の戦闘用動作まで入力されています! それらを手取り足取り教えてマスターを超一流の操縦士へと導いてみせます!」


(……!? ピ、ピオンの体、ていうか胸が凄いことに……!)


 よほどサイの言葉が嬉しかったのか、ピオンはまるで踊っているかのような激しい身ぶり手振りを加えながら熱い言葉を上げる。その度にホムンクルスの少女の小柄ながらに豊満な体の肉、特に乳房が激しく揺れ動き、二つの肉の果実の暴れっぷりをサイ……ではなく巨乳好きな馬鹿は凝視するのであった。

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