ゴーレムトルーパー
「これがゴーレムオーブか……」
生鉄の樹の根元まで来たサイは、生鉄の樹の表面から盛り上がっている球体、ゴーレムオーブを興味深そうに見る。
「はい。これこそが前文明の技術の粋を集めた戦闘兵器ゴーレムトルーパーのコアユニット、ゴーレムオーブです。一つだけですけど手に入って良かったですね、マスター」
「ああ、本当にな。……でもこれってどうやって取るんだ?」
「これでしたら簡単に取れますよ。マスター、ちょっと降ろしてもらってもいいですか?」
「分かった」
サイが今まで抱き抱えていたピオンを降ろすと、ホムンクルスの少女はゴーレムオーブに触れた。すると全く力を入れていないのにゴーレムオーブは生鉄の樹の表面からあっさりと離れた。
「ほら、簡単でしょう? ……それでマスター? このゴーレムオーブ、どうするおつもりですか?」
「どうするって……そうだな、やっぱり王家か軍に献上、かな? ゴーレムオーブを献上したら地位も名誉も思いのままだろうし」
「………そうですか」
ゴーレムオーブの使い道を聞かれたサイは少し考えてから答え、それを聞いたピオンは僅かに寂しそうな表情となって俯くのだが、青年はそんなホムンクルスの少女の変化に気づくことなく言葉を続ける。
「でもやっぱり勿体無いかもな? 次のゴーレムオーブなんていつできるか分からないし、俺もゴーレムトルーパーに乗ってみたいからな」
「っ!? 本当ですか!」
サイの言葉にピオンは勢いよく顔を上げて自分の主の顔を見る。その瞳は強い期待と喜びで輝いていた。
「うわっ!? どうした?」
「マスター! 今の言葉は本当でしょうか?」
驚くサイに詰め寄ってピオンが聞くと、青年はホムンクルスの少女の並々ならぬ気迫に気圧されながらも答える。
「あ、ああ、まあな。やっぱり男だったら一度は自分だけのゴーレムトルーパーに乗って格好よく戦ってみたいって思うだろ?」
「……そうですか」
サイの返答にピオンは先程と同じ返事をする。しかしその表情は先程の寂しそうな表情とは逆の、嬉しそうな表情であった。
「ピオン? さっきから一体どうしたんだ?」
「……いえ。驚かしてすみませんでした、マスター。……でも、そうですね……」
ピオンは何か悩むような表情で考えると、次にゴーレムオーブを持ったままサイから離れていく。先程から意味が分からない行動をとるホムンクルスの少女にサイが再び呼びかける。
「おい。ピオン」
「……マスター。先に謝っておきます。勝手なことをして大変申し訳ありません」
「? 先に謝るって、何をする気なんだ?」
困惑するサイに謝罪の言葉を口にしたピオンはゆっくりと青年の方にと振り向きそして……、
「キャー、テガスベッチャイマシター」
と、清々しいくらい棒読みな台詞を言ってゴーレムオーブをサイの方へ高く放り投げた。
「ちょっ!? おまっ! 何をするんだ!?」
突然のピオンの行動にサイが驚きの声を上げる。
実際、この程度の高さから落ちたぐらいではゴーレムオーブは壊れるどころか傷一つつかないのだが、それを知らないサイは慌てて両手を広げて落ちてくるゴーレムオーブを受け止めようとする。
「………」
そしてそんなサイの姿にピオンは嬉しさと申し訳なさを混ぜ合わせた複雑な表情を浮かべていた。
「ゴーレムオーブが……って、おっと!」
ピオンが放り投げたゴーレムオーブをサイが両手で受け止める。受け止めた後、青年はゴーレムオーブに異常が無いかを念入りに確認して、異常が無いことが分かると安堵の息を吐いた。
「よかった。大丈夫だ。……ピオン! これは一体どういうつもり……だ……?」
流石にこれは許す事ができなかったサイがピオンに向けて怒声を上げようとした時、青年の手の中でゴーレムオーブに異変が生じた。
まず最初にゴーレムオーブの表面が脈打ち、生き物の鼓動のような振動がサイの掌に伝わってきた。
次にゴーレムオーブが光を放ち、生鉄の樹しか灯りがなかったこの空間を照らし出す。
光を放ち始めると同時に冷たかったはずのゴーレムオーブが徐々に熱を帯び始め、今では人肌よりもやや熱いくらいの熱を帯びていた。
「な、何だ? 何だよ、コレ?」
「マスター。マスターはゴーレムオーブをゴーレムトルーパーにするための条件ってご存知ですか?」
自分の手の中にあるゴーレムオーブの異変に困惑しているサイにピオンが近づきながら話しかける。
「ゴーレムオーブをゴーレムトルーパーにする条件?」
「はい。その条件とは非常に簡単で『ゴーレムオーブの表面に人間の血液を接触させる』。それだけなんです。それだけでゴーレムオーブは血液にある遺伝子情報から血液の提供者に相応しい姿と武装を導き出してその姿にとなるのです」
「血液……。あ……?」
ピオンの説明を聞いたサイは何かを思い出した表情となって自分の左手を見る。自分がこの遺跡の探索を始めた最初に左手の掌を切って、今もうっすらと血が出ている事を思い出したのだ。
「ピオン。お前、その為にあんな事を?」
「はい。……そろそろ危ないのでゴーレムオーブをお離しください」
ゴーレムオーブに血が出ている左手を接触させる為にゴーレムオーブを放り投げたのか、と聞くサイにピオンは頷くと、ホムンクルスの少女は主人の青年からゴーレムオーブを奪い取ってそれを床にと放り投げる。するとゴーレムオーブが床に接触した瞬間、ゴーレムオーブの光が一気に強まり目を開けていられない程になった。
「うわっ!? ………?」
とっさに両手を顔の前にもっていきゴーレムオーブが放つ光から目を守ったサイは、光の中でゴーレムオーブと思われる光源が変化していくのを見た。球状だった光源が粘土のように不定形に形を変えながら大きくなっていき、見上げる程大きくなったところでようやく光が収まった。
「……? ………何だコレは!?」
最初は強い光を見たせいで周りがよく見えなかったサイだが、目が慣れてきて目の前にある「それ」を見て驚きの声を上げる。
それは金属でできた巨大な像であった。
まず目に入ったのは巨大な竜。
巨体を支える強靭な両脚と棍棒のように太くて長い前腕部を持ち、額に前方に向かって伸びている巨大な角を生やした鋼鉄の竜。
そして鋼鉄の竜の背中には騎士のような外見をした人間の上半身が生えていた。
「これって……まさか……」
「はい。そのまさかです」
目の前にある竜と騎士が一体化した巨像を見上げながら呆けた声を出すサイに、ピオンは心から嬉しそうな笑顔を浮かべながら自らの主人へ告げる。
「これこそがマスターの血によって生まれた、マスターだけの『ゴーレムトルーパー』です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます