第2話 バケモノタイジ 壱
1
いつかの彼女は私に言った。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。有名な言葉があるよな、まさにその通りだったよ。無策に飛び込むのはよくない、物事には順序ってのがある。それを守らなかったら当然ツケは回ってくるからさ、君も気をつけるんだぜ」
2
巡さんの出で立ちについてだけれど、深紅という表現が一番しっくりくるんじゃないかなってくらい真っ赤なショートヘアー。
しかも目だけで人が殺せるんじゃないかってくらい鋭い目つきで、まつ毛ぱっちりで、とても美人だ。
その見た目の荒々しさを抑える様な落ち着いたその瞳は翡翠色をしていて、右目が髪で隠れている。
服装は赤のノースリーブに赤いカーディガン、それらによくマッチしたワインレッドのロングスカートだった。
身長は180cm程だろうか私より遥かに高い……。
それに出るとこは出ていてとてもスタイルがいい。
これで高校二年の私より十歳上だと言うからびっくりだ。
対する私の見てくれだけど、頭は真っ白のセミロングで、まつ毛も白いし……ちょっと長いかな?
目は去年色々あったので裸眼はそれこそ巡さんの髪色のような真紅と表現するのが正しいだろう。
赤い目に白い頭なら合わせる服も選びやすいというものだ、散々だったけどまあ存外悪くないので最近はファッションを楽しんでいたりする。
今日は白のワンピースで身軽さを重視した。
廃ビルの社長室であったろう場所を綺麗に掃除したのはいい思い出だった、巡さんがとくに関係ない後輩を呼びつけてトイレ掃除をさせた話なんて涙無しには語れない。
ここまで綺麗にするのに私達はどれほど苦労しただろうか、ノーベル頑張ったで賞ぐらい欲しいものである。
そんな一室の真ん中、黒く長いソファに座って、ガラスのローテーブルを挟んで向かい合い、今日の朝刊を読んで一息ついた巡さんに話しかけた。
「そう言えば気になってたんですが解明師ってお金貰えるんですか?依頼だって来ますよね?だったらお給金くらいほしいとこですけど」
巡さんはコーヒーを一口、呆れ顔で言った。
「やぶからぼうになんだい急に。解明師なんて名前だけだよ、聞こえの良い名称を使ってるだけさ!この仕事は無職と一緒。言わば無職がパチンコ打ってるか、バケモン退治してるかのごくごく些細な違いなんだよ。依頼だって儲けなんてほとんど無いよ、後輩や同僚からみかじめ料がほぼさ」
うわぁ……。
ドヤ顔でみかじめ料とか言ってるよこの人。
「……。バケモン退治とパチンコに行くを同列で考えるなんてどういう思考回路したらそうなるのか知りたいですよ。後輩や同僚から搾り取ってでも怪異に関わってるのは何故なんですか?」
労働を好まない怠け者でありいつだって自由奔放、誰の言いなりにもならない、遊び人。
しかし彼女が依頼を断った事は一度だってない。
「なんだいその言い方は……。まあ、関わりを持っていたいのさ、常にね。戒め。これは。私は怪異と関わっていないといけないんだよ。じゃないと報われないのさ、誰も彼も何もかもね」
「何がどう報われないんです?教えてくださいよ、気になるじゃないですか」
少しの好奇心と怖いもの見たさ半分で私は疑問し、それは深淵を覗くような感覚をも覚える。
「や〜だね〜、コダマちゃんにはまだ教えてあ〜げない!それより仕事の話をしようじゃないか」
「そうやっていつも意味深な事言って何も教えてくれない癖、直してくださいって何度も何度も――」
「あーはいはい直す直す、超ウルトラビッグバン直す、来世でな!!つーことで今日はこれを退治しにいくぜ」
そうやって机の上に紙を一枚、化け物が写っている。
超ウルトラビッグバンってなんだよ。しかも来世ってもう反省する気が微塵も感じられないじゃん……。
たまに思うことがある。
なんで私はこんな人に助けてもらったんだろうと、去年の夏休みより後悔しているかもしれない。
でもこの出会いが無ければ今こうしていられないので自己矛盾はやめておこう。
この人美人だし。
妖怪退治に至ってはいつも私は特定の役割を持たされる。
やりたくない気持ちが溢れて吐きそうだ……。
「吐きそうになってるとこ悪いけど今日も囮を頼むぜ、妖怪引き付け機ちゃん」
私は対怪異、妖怪に関しては囮役らしい、まあそういう体質だからしょうがないのだけれど、苦手ってレベルじゃない。
そういえば知り合いの聖女様が言っていた『嫌な事があったら笑顔でNOと中指を突き立てなさい』と。
中指を立てるなんてとんでもない!しかし嫌な時こそ笑顔で断るべきだろう。
「嫌です!」
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